第50話 智香子の違和感
智香子たち一年生は、先輩方のパーティに同行させて貰っている。
先輩方と智香子たち一年生とでは、そもそも累積効果に相当な格差があるので、一年生組がパーティに貢献できる場面はほとんど存在ない。
「いーよいーよ」
しかし先輩方は、そのことをまるで気にとめてはいなかった。
「一年の時はそんなもんだし、わたしらも、先輩方にお世話になっているし」
なにも貢献していなくても、パーティに同行しているだけでそれなりに経験値は入ってくるわけで。
しばらくそうやって同行していれば、ただそれだけで一年生たちは強くなっていくわけであった。
とはいっても万が一ということがあったから、先輩方も一年生を同行させているときは、普段はまず行かないような浅い階層を選んで探索している。
ドロップ・アイテムは深い階層になるほど高価な物、希少性のあるドロップ・アイテムなどが出やすい傾向があった。
そうした傾向がなければ、そもそも探索者たちもより深い階層を目指したりはしない。
すでにかなり深い階層を探索することができる能力を得ている先輩方にとって、一桁台の浅い階層を選ぶ理由はないはずだった。
つまり、「一年生の育成」という理由を除いては、ということだが。
ここでの探索が先輩方の一方的な蹂躙、オーバーキルになってしまうのも、仕方がないといえる。
先輩方とこのあたりの浅い階層に出没するエネミーとでは、それくらいの能力差が存在するのだから。
そんな先輩方にしてみれば、ここでの役割と目的を考慮すると、
「一体でも多くのエネミーを倒す」
という方針になるのは、ごく自然な成り行きであった。
そもそもそれは、智香子たち一年生のためにわざわざやってくれていることであり、そのことに文句をいうのは筋違いなのではないか、と、智香子自身も思っている。
しかし、事前に黎に聞かされてから、というわけではないが、こうした松濤女子の伝統的なやり方は、なにか違うのではないか。
と、そういう違和感を、智香子もだんだんと感じて来ていた。
先輩方のように、経験を積んだ探索者というのは、それほどに強い。
その強い先輩方が、いくら後輩たちのためとはいっても、倒す必要がない浅い階層のエネミーを虐殺して回るのは、なにか違うのではないか。
もちろん、先輩方はあくまで後輩の、智香子たち一年生のレベリングのためにそうした行為をしているのであり、そのことに智香子の側から文句をいう行為は、矛盾もいいところなのだが。
ただ、エネミーは、通常生物の形をしている。
バッタの間にひしめいていたバッタのように、無数にいてしかも虫の形をしていれば、何度全滅をさせてもあまり気にならないのだが、この階層のスイギュウ型エネミーのように、哺乳類でより一層「生きている」実感が強い生物を一方的に殺して回ることに、智香子はだんだん引け目を感じてくるのだった。
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