第266話 〈スローター〉の戦法
「サバイバー、か」
智香子の言葉を受けて、黎は少し考え込む顔つきになる。
「そう考えると、辻褄は合うのかなあ。
いずれにせよ、他の探索者の事情を勝手に推測したり詮索するのも、あまり意味がないと思うけど」
「それをいっちゃうとね」
香椎さんが、軽く顔を顰める。
「どうしても興味があるのなら、なにかの機会に本人に直接訊けばいいだけだし」
「今度会った時にでも、師匠に確認してきましょうか?」
世良月が、そういった。
「あの人、そういうのは勿体ぶらずに気軽に教えてくれる人ですけど」
「会う予定、あるの?」
佐治さんが、その世良月に確認をする。
「一番近い予定は、三日後の火曜日ですね」
スマホを取り出して予定を確認しつつ、世良月が答えた。
「火曜日の放課後、〈赤羽迷宮〉で合流することになっています」
「〈赤羽迷宮〉、か」
黎が、もっとももっともらしい顔をして頷いた。
「そこが、あの〈スローター〉さんの本来のホームなの?」
「いえ、師匠がソロで行く時は、だいたい〈四つ木迷宮〉のようですね」
世良月は即答する。
「他の探索者と組む時は、別の迷宮に行きますけど。
今住んでいるマンションも、向島かどっか、そっちの方だって聞いたことがあります」
「ってことは、その火曜日も、他の探索者とパーティを組む予定になっている、ってことか」
佐治さんがいった。
「で、月ちゃんも、そのパーティに混ざる予定になっている、と」
「そういうことですね」
世良月はあっさりとそういって頷く。
この世良月が、かなりの頻度で校外のパーティに参加していることは、少なくともこの場にいる者にとっては周知のことだった。
ってことは。
と、智香子は想像する。
その〈赤羽迷宮〉のパーティは、世良月となんらかの繋がりがある探索者たちで組んでいるパーティなのだろうな。
「その〈赤羽迷宮〉の人たち、月ちゃんの知り合いのパーティ?」
香椎さんが、智香子が想像していた通りの内容を世良月に確認した。
「まあ、そうですね」
世良月は、これについてもあっさりと首肯する。
「ちょっといろいろ、一口には説明しにくい関係なんですけど」
この世良月と、おそらくは大人の、場合によっては専業の探索者たちとの間に、どういった関係があるのだろうか。
と、智香子は疑問に思う。
素直に考えれば、両親の知り合いという辺りなのだが、世良月がなんとなく口を濁しているところを見ると、なにかもっと込み入った事情があるのかも知れない。
いずれにせよ、そこまで詮索する必要はないな、と、智香子はそれ以上に突っ込んだ質問をすることを自重することにした。
「といわれても」
佐治さんは、そう続ける。
「なにを訊くべきかなあ?」
「あの人の過去のいきさつはともかく」
それまで黙っていた柳瀬さんが、口を開く。
「肝心なのは、今の戦法についてでしょう。
そういう質問をする方が、今のわたしたちにとっては、よほど役に立つ」
「そうだね」
香椎さんは、その言葉に軽く頷いた。
「そうすると……〈バッタの間〉で、あの武器を選んで使ったのはなぜか?
とか、かな。
他にも武器、いろいろと持っているんでしょ?
あの人」
「いっぱい持ってますね」
世良月は、そういって大きく頷いた。
「迷宮でドロップしたもの、自分で発注して作らせたもの。
ともかく、使えるものはなんでも使うような人です」
「なりふり構わず、か」
佐治さんが、呟いた。
「〈バッタの間〉では、わたしら観客がいたからあれでも自重していたんだなあ」
「なんであの〈鞭〉を使っていたのか、理由が想像は想像できる?」
智香子は、世良月にそう訊ねてみる。
「あの場での取り回しがいいのと、それにそこそこリーチがあるからではないですかね?」
世良月は、そう答えた。
「もっと強力な攻撃力とリーチを持つ武器も、あの人は持っているはずですけど。
でもあの〈槍〉は、とても重たくて〈バッタの間〉のような場所で使うには、取り回しに問題があります」
〈槍〉というのは、おそらくはなんらかのドロップ・アイテムのことなんだろうな。
と、智香子は推測した。
「周囲の状況によって、柔軟に方法を変える。
それくらい、臨機応変に対応できるだけの手数を持っている人」
香椎さんが、いった。
「そう考えていいのかな?」
「もちろん、そうです」
世良月は、大きく頷いた。
「あの人は基本、〈投擲〉スキルをメインに使っていますから。
それでは間に合わないエネミーに対しては、近接戦闘を仕掛けますけど」
それでは間に合わない場合、というのは、具体的に考えると、〈バッタの間〉でのようにエネミーの数が多すぎる場合。
それと、〈投擲〉スキルだけでは倒しきれないエネミーを相手にする場合、などだろうな。
と、智香子は想像する。
体が大きかったり、生命力が強かったりするエネミーの場合、〈投擲〉スキルで与えるダメージだけでは効率的に倒すことができないはずなのだ。
その辺、手を変え武器を変え、臨機応変に対応している。
そういう、ことなのだろう。
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