第106話 集団戦闘の終了
「その意味では、チートなスキルとか探索者っていなんじゃないかな。
それぞれの得手不得手があるだけで」
黎は、そう続ける。
「いいや」
少し強めの口調で、青島先輩が指摘をした。
「今は、〈所沢のエース〉がおるし」
「ああ」
黎も、あっさり頷いて青島先輩の発言を認めた。
「噂では、かなり破格の人らしいですね。
あらゆる面で。
ただあの人の場合、他の探索者と差があり過ぎてあんまり参考にできる部分がないような気もしますが」
「まあね」
青島先輩も、黎のその言葉には頷いていた。
「あれはなんというか、一線を画しすぎているというか。
本当に人間なのか疑うレベルだからなあ」
〈所沢迷宮のエース〉って、誰なんだろう。
その辺の事情には疎い智香子はそう疑問を抱き、迷宮から出たら検索をしてみようと思った。
黎と青島先輩の口調から察するに、きっと有名な探索者に違いない。
実際に迷宮に入るようになってから自分なりに調べるようにも心がけてきたが、この時点で自分の知識量は黎などとは比較にならないほど少ないな、と、智香子はそうも思った。
それまで智香子は、迷宮とも探索者とも縁がない生活をしてきたので、仕方はない面もあるのだが。
「でもあの人は、例外枠でいいでしょう。
どうせ誰も、あの人の真似はできないですし」
「まあそうなんだけどね」
智香子がそんな風に思っている間にも、二人は会話を続けている。
その〈所沢迷宮のエース〉とは、どうもかなりとんでもない存在であるらしい。
「探索者って基本、長くやればやるほど手数が増えて対応できる幅が増えていくもんなのよ」
青島先輩は続ける。
「わかりやすい例でいうと、遠距離と近距離とか。
でも基本の、自分の得意な領域ってのはそうなっても変わらずあるんだけれど」
「長くやっていれば使えるスキルも自然と増えていきますからね」
黎は青島先輩の言葉に頷いた。
「そうなっても、決してオールマイティになるわけではない、と」
「そうそう」
青島先輩は何度も頷く。
「対応できるようになる、っていうのと、得手不得手がなくなるってのは根本的に違うから。
さっきの〈ニンジャ〉の人も基本スペックはめちゃ高いけど、レイちゃんがいっていた通りに無敵ってわけじゃないし。
探索者も所詮は人間でさ。
どんなに成長しても、絶対に短所は残るわけだから。
パーティを作ってその短所をかばい合うのが、それに対する一番の対応策かな」
どうも青島先輩は、その結論を伝えたかったようだ。
そのパーティを作る利点というのは、松濤女子探索部全体が推奨する内容でもある。
複数の探索者が協力をし合うことで、お互いの短所をカバーする。
シンプルだが有効な解決策といえた。
そのメソッドと真っ向から対抗するソロプレイヤーの存在を智香子は後で知ることになるのだが、それはもう少し先のことになる。
その後智香子たちは〈鈍牛〉の人経由で〈テイマー〉の人を紹介され、これまで敵対することしかなかったエネミーを間近に見て触ってもふもふしたりした。
〈テイマー〉がテイムしているエネミーたちは多種多様であり、そのほとんどが現在智香子たちが行き来をしている階層よりも深い場所に出るエネミーだった。
大型のエネミーも決して少なくはなく、間近でそうしたエネミーを見るとかなり迫力があったが、そうしたエネミーたちはすでにテイムされているのでよほどのことがなければ人間に反抗的な態度を取ることがない。
自分に危害を与えることがないとわかっているエネミーは通常のエネミーとは違い、種類によってはかなり人に慣れてもいた。
先輩方は〈鈍牛〉の人をはじめとした城南大学の人たちと連絡先を交換し、パーティを組む約束なども交わしていたようだ。
まだまだ探索者として初歩的な段階を脱していない智香子たち一年生たちは、この段階ではそちらの方に参加をするほどの実力でもない。
そんな感じで休憩と対エネミーの集団戦闘を何度か繰り返し、その日のうちにその階層のラッコ型エネミーを殲滅することに成功した。
その〈特殊階層〉の攻略は、無事に成功したことになる。
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