第107話 夏休みの過ごし方
お盆も過ぎるといよいよ夏休みも終わりに近づいてくる。
智香子は相変わらず週に何度か迷宮に入るために学校に通う生活をしていた。
それ以外はほぼ家に籠もって夏休みの課題なり自習なりをしていて、夏休みらしい遊びには出かけていない。
今年から中学生になったということもあり、両親も小学生だった時のように智香子をどこかに連れ出すということもなく、「もう中学生だから」とかいうよくわからない理由により以前よりもずっと放任するようになっている。
基本、智香子の両親は仕事人間であり、家庭のことに関しては最小限の時間と労力しか投入しようとしない傾向があり、智香子としてもそうした両親の傾向を黙認していた。
この年齢にもなればなにかと構われるよりは放任されていた方が気が楽だし、それに両親は両親なりに独特の価値観で智香子におぼえるべきこととしてタスク管理やオフィスアプリの操作方法、家事や料理の基礎などをかなり早い時期から教えている。
別に智香子に家事を押しつけようとしていたわけではなく、その証拠に夫婦で分担して当番制で掃除や洗濯、料理などはこなしていて智香子がつけいる隙もなく、ただ単に、
「そうしたスキルを身につけておけば、助かることはあっても一生困ることはないから」
という、ごくシンプルな理由からだった。
放任気味ではあってもレグネイトではないよな、と、智香子は自分の家族についてそう思う。
基本的に智香子は、暇があれば本を読んでいるか海外ドラマの配信を見ているかのどちらかというインドア派であり、特別どこかに遊びに出かけなくとも不満はなかった。
それに、勉強の方も夏休みのうちにちょっと時間をかけておかないと落ちこぼれる、という危機感もあった。
松濤女子は進学校ではなかったが、それが学校側がそうした面をアピールしてはいないということであり、実態としてはかなり成績のいい生徒ばかりが揃っている。
少なくとも、智香子的には一学期に接してきた同級生たちの成績を見て、そう感じていた。
実際、卒業後の進路を見てみても毎年数十名単位で難関校に行っているし、授業もそれだけ密度が濃い内容の教科が多かった。
いい家柄の子が多いわけだよ、と、智香子はこれまで通ってきた松濤女子について、そう評価をしていた。
校則も部活も授業も、特別なことをやっているわけではないが、基本的なことは手を抜かずにやる。
一見特色がないようでいて、実は「校内での普通」のラインがかなり高い。
卒業後の進路も通常の大学進学だけではなく、国外の学校へ留学していく者も多いという。
それと、卒業生の中から有名人を多く排出してもいた。
芸能人や経営者、代議士など、各界でそれなりの業績を収めた人物が多く、智香子も後からその事実を知って、
「あの人も松濤女子を出ていたんですか!」
と驚くような人が多かった。
そんな学校によく入学できたよな、と、智香子はそうも思っていた。
周囲の同級生たちと比べると、智香子自身は特に優秀なところがなく、かなり平凡なパーソナリテイしか持っていない。
うまい具合に「お受験」を切り抜けられたものだよなあ、と、今さらながらにそう思ってしまう。
周囲のレベルがなにかと高いので、智香子としてもそこから落ちこぼれることは避けたかった。
部活については今のところ、そこそこうまくはやれていると思うけど、学業については平凡な能力しか持たない時間をかけておぼえていくしかない。
わりと生徒の自主性を尊重する校風からか、量的に見れば夏休みの課題はそんなに多くはなかったが、そのかわり智香子の場合、一学期分の復習と二学期分の予習に時間を割いていた。
凡才ならば凡才なりのやり方で、地道にやっていくしかない。
なにせ二学期は、一学期よりも長いのだ。
その間、授業に遅れないようにしなければならない。
実は負けず嫌いの気味がある智香子は、なんとなくそんな風に思っていた。
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