第155話 三人の反応

「それでどうするの、委員会」

 シャワールームまで移動する間に、香椎さんが智香子に訊ねる。

「いくつもり?」

「まあ、見学くらいなら」

 智香子は反射的にそう答えていた。

「正直、委員会でなにをやっているのか、興味がまるでないわけでもないし」

「微妙ないい方だけど」

 佐治さんがいった。

「つまりは、興味が出て来たってわけだね」

「興味というか」

 智香子は少し顔を顰めた。

「あそこがどういう風に仕事しているのか、知りたくなっただけなんだけど。

 だって、委員会の仕事、想像してみるとかなり大変そうだし。

 それを生徒だけでこなしているって考えると」

「興味って、そっちの方か」

 黎がいった。

「チカちゃんらしいっていえば、らしいけど」

「らしい?」

 智香子は小さく首を傾げる。

「どの辺が?」

「好奇心が強く物見高い」

 黎は、即答をする。

「注意深く周りを見ている反面、案外自分の足元は見ていなかったり」

「なにそれ」

 智香子は不機嫌な表情を作った。

「まるで、わたしが間抜けみたいな」

「まあ、身近な安全はわたしらに任せておいていいから」

 佐治さんはにこやかな表情でそういった。

「司令塔は指令塔らしく、どっしりと構えて自分の行きたいところに行けばいい」

「そうね」

 香椎さんも、佐治さんの言葉に頷く。

「これまでだって冬馬さんについていって間違いはなかったし」

「まあねえ」

 黎も、苦笑いを浮かべながらそういった。

「扶桑さんとの件も、結局チカちゃんが外の大人と組むことを思いつかなかったら、ここまで進んでいないからなあ。

 今回の委員会も、実際に中に入ればチカちゃん、またなにか思いつくと思うし」

「え?」

 智香子は大きく目を見開いて、三人を見渡す。

「なに、それ。

 みんな、いっしょに来るつもりなの?」

「そんなに連れないことをいわないでよ」

 佐治さんが、そんな風にいいながら智香子の首に腕を回す。

「まずは見学。

 その後のことは、それからでしょ?

 そこに同行するくらい、いいじゃないか」

「ああ、いや」

 智香子は戸惑っていた。

「委員会に誘われたのは、あくまでわたしだから」

 智香子としては、今の今まで、委員会関係のことは自分ひとりの問題として考えていた。

 いいとか悪いとかいう以前に、この三人がついてくることまではまるで予想していなかったのだ。

「委員会に入るとすれば」

 智香子は、三人に向かってそういった。

「そちらにかなり、時間を取られることになるよ。

 多分」

「そのかわり、いい経験にもなるんでしょ?」

 香椎さんは、そう応じる。

「それがどういう意味なのか、実はよくわかっていないんだけど。

 でも、率先して委員会に入って活動する人がいるってことは、そこになんらかのメリットがあるってことだと思う」

「ましてや、親子二代でとかいるっていっていたしね」

 佐治さんがいった。

「現役の生徒だけでなく、随分前に卒業した人たちまで委員会での活動を評価しているんなら、そこにはなんらかの意味があるはずだしね。

 普通に考えても」

「組織運営とか、備品やお金の管理、じゃないかな」

 智香子は自分で考えていた内容を披露した。

「おそらくは、そんな地味なことだよ。

 社会に出てからは役に立つかも知れないけど、やって面白い仕事だとも思えない」

「そんなところだろうね」

 黎も、智香子の言葉に頷く。

「別にこちらも、委員会が世界の平和を守っているとか思っているわけではないし」

 随分と想像力豊かな発想だな、と、智香子は思ったが、よくよく考えてみるとこの学校の中に迷宮なんても物が存在するわけで。

 そういうことも考慮すると、黎の発想もそこまで飛躍した内容でもないのかも知れない。

「ラノベやマンガじゃないんだから」

 智香子は、そう返した。

「現実はもっと地道で、面白くないものだと思う」

 委員会の、活動内容とか。


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