第156話 見学へ

 智香子たち四人が委員会へ見学に行ったのは、結局十一月に入ってからになった。

 間に学園祭とか中間試験などが入ったため、なかなか時間の都合がつかなかったためである。

 こうした行事にも松濤女子ではしっかりと力を入れているわけだが、そのため参加を強制される智香子たち生徒側の負担も大きい。

 特に智香子たち一年生はまだ不慣れな部分も多く、一度にあれもこれもと平行して手をつけられるほどに器用でもなく、それらのイベントが終わるまで見学の方も待って貰う形となった。

 委員会としてもそうした見学に期限などを設けているわけではなく、どちらかというと「委員会の活動に興味を持ってくれるのならばいつでも歓迎」というスタンスであったが、今回の場合は智香子たちの側に余裕がなかった。

「探索部とごく普通の学業をこなしているだけでも、こんなに負担に感じているというのに」

 このことについて、智香子はそんな風に思う。

「それ以外に兼部もしている人たち、とんでもないなあ」

 そうした人たちは智香子などよりもよほど忙しい日々を日常的に過ごしているはずなのである。

 漏れ聞いたところによると、運動部系の人たちよりも演劇部や吹奏楽部の方が拘束時間が長く、ほとんど毎日放課後に顔を合わせ、長時間過ごしているとかいうことだった。

 場合によっては一度迷宮に潜り、帰って来てからそれぞれのホームグランドで改めて部活動を開始する日なども普通にあるそうで、智香子などは、

「そんなバイタリティがどこから沸いてくるんだ」

 とか思ってしまう。

 智香子自身はそこまで体力的気力的に余裕があるわけではなく、現状でもかなりいっぱいいっぱいな感じだった。

 それほど余裕のない感じであったため、今回の委員会勧誘の件にしても、

「自分にできるんだろうか?」

 という不安と疑問を、智香子は抱いている。

「いやチカちゃんの場合、いうほど余裕がないってわけでもないでしょ」

 智香子がそうした不安を漏らすと、黎は軽い口調でそういった。

「なんだかんだで、仲間内では一番冷静に周りを見ているし」

「冬馬さんが自身が、余裕がないと感じているのだとしたら」

 香椎さんも、そんな風につけ加えた。

「それは、あくまでフィジカルな問題かと。

 体力的に消耗していることが多いから、心理的にも不安になっていることが多い」

「それでも最近は、以前と比べるとバテなくなってきているよね」

 佐治さんも、そういう。

「なんだかんだで、体が慣れてきている」

「そりゃ、あれだけ走り回ればね」

 智香子は、ため息混じるにそういった。

「体力くらい、いやでもつくでしょ」

 というよりも、と、智香子は考える。

 自分の場合、それ以前が虚弱過ぎただけ、という気もする。

 この学校に入学する前は、体育の授業以外に運動らしい運動をしたおぼえがなかった。

 基本、智香子はあまり活発なタイプではなく、完全にインドア系なのである。

 そんな智香子であっても、半年以上も週に何度かハードな運動をしていれば、自然とスタミナもついてしまうわけだが。

「だからさ」

 佐治さんは、そう続けた。

「委員会の件も、実際に中に飛び込んでみればなんとかなっちゃうって」


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