第304話 虎口
「間違いなく、賢くなっているよなあ」
直立ネコ型エネミーの群れとの先頭を繰り返す度に、智香子はそう確信した。
接触したエネミーは智香子たちが全力で全滅させて来た。
だから、エネミーの側が戦闘経験を引き継いでいることはあり得ない。
の、だが。
「なんか、こちらの戦い方に対して、毎回対策を立てて試しているような」
節がある。
と、智香子は思う。
全滅したエネミーが、そこにはいないエネミーに対して智香子たちの先方を伝えるようなスキルなりアイテムなりが、あるんじゃなかろうか?
「まあ、迷宮のことだから」
一度、休憩を取る時に〈スローター〉氏にそのアイデアを話してみたら、そう返された。
「絶対にあり得ない、とはいえないけど。
でも、現実的に考えたら、そんな便利なものはないだろうね。
そんなものがあったら、特定のエネミーだけが強くなって、探索者のロストが続出しているはずだし」
「そうだろうなあ」
と、智香子も心の中で頷く。
最近、探索者がロストする事例が増えているという噂も聞かない。
ということは、エネミーや迷宮の側にも大きな変化は起こっていない。
そう考えるのが、普通だろう。
しかし智香子は、続けてその疑問をぶつけてみた。
「でもなんだか、直立ネコ型が強くなっているような」
「それは、否定できないかな」
〈スローター〉氏は、いった。
「頭だけではなく、速度や力までが全体に、平均的に底あげされているような感触はあるわけだし。
実際にそうなっているんだから、こちらとしてはそれに対応していくしかないんだけど。
でも、強いてその原因を考えるとすると……」
「はい」
智香子は頷いて、その先を促した。
「……直立ネコ型も、エネミーを倒し続けて強くなっているんだと思う。
人間の探索者と同じように。
っていうか、うん。
今、この階層で生き残っているエネミーは、他のエネミーを倒してスキルを増やし、累積効果も蓄えた精鋭なんじゃないかな」
「あ」
智香子は、小さな声をあげた。
「エネミー同士で戦うことも、あるんでしたね」
人間の探索者と同じように、エネミーも他の生物を倒せば累積効果を蓄積し、場合によってはスキルも生やす。
ことに、多少なりとも知恵のあるヒト型は、積極的に自分たちを育てる傾向があると、広く知られていた。
そうした可能性を、これまでヒト型エネミーと関わりが薄かった智香子は、すっかり失念していたのだ。
また、最近になって直立ネコ型以外の、カエル型エネミーと遭遇する頻度が極端に減っていることも、この仮説を裏付けているような気がした。
「原因はよくわからないけど、エネミーは強くなっている。
こちらとしては、その強くなっているエネミーに勝ち続けなければならない」
〈スローター〉氏は、そう続ける。
「現状としては、その点だけを認識しておけば十分なんじゃないかな」
膨大な矢が降り注ぐ。
智香子と世良月は、それぞれのスキルで弓使いのエネミーを行動不能にしていくのだが、前衛の四人はその工程が終わるまで待っている余裕はなかった。
その矢を追うようにして、それぞれの得物を構えたエネミーたちがこちらに突撃してきているからだ。
「うっひゃあー!」
両手に持った盾を頭上と前に構えながら、佐治さんがわめいた。
「やるしかないっていっても、これじゃあなあ!」
エネミーの先方が直前まで近づいた時点で、佐治さんは両腕の盾を左右に素早く振り回してねみーたちは蹴散らす。
一見、佐治さんが一方的にエネミーたちをやっつけているようにも見えたが、よく見るとプロテクターに矢が刺さっていたりして、佐治さんの方もエネミー側の攻撃をいくらかは受けていた。
佐治さんが突き崩した一画に、他の三人が突撃して、強引に傷口をこじ開けていく。
武器を振るえば、エネミーに当たる。
それほど、エネミーたちは密集していた。
柳瀬さんが槍衾の穂先付近をまとめて何本か掴んで、そのまま乱暴な動作で薙ぎ倒す。
香椎さんが〈ブラックコック・ジャック〉を振り回して、片端からエネミーたちを叩き潰していく。
黎がエネミーに密着した状態で、双剣を振るう。
そうしてエネミーたちを攻撃しながら、前衛の四人は絶えず移動し続けなければならなかった。
少しでも立ち止まれば、全周方向からの攻撃が集中してくる。
いくら体格差、能力差があるにしても、集中攻撃を受けて続ける状態は避けたかった。
今のエネミーたちは、そこまで智香子たちと実力差があるわけでもないのだ。
例の長大な〈槍〉を振り回してエネミーたちを効率よく片付けながら、〈スローター〉氏も要所要所で〈投擲〉スキルにより援護射撃をしてくれる。
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