第30話 一年生たち

 探索部の部活は、別に毎日あるものではないし、決まった曜日にあるというものでもない。

 というより、例の十八歳の探索者問題で、やろうと思っても自然と活動可能なパーティの数は決まってしまう、のだろうな。

 と、智香子は想像をする。

 週末など、人を集めやすい時は新入生の育成に力を入れて、平日は二年生以上の、上級生たちがパーティを結成して、迷宮に入っているようだ。

 ようだ、というのは、推測に頼る部分が多く、智香子にしてみてもまだまだ探索部の全貌を知ることができないでいるせいだった。

 ともあれ、その週は週末まで、智香子が部活の参加を打診されることはなかった。


 いざ迷宮内に入るとなると随分無理なことをやらされるかわりに、迷宮以外の場所で探索部員がなにかを強制される、ということはない。

 少なくとも、今までのところ、智香子が関知する範囲内では。

 上下関係はそれなりに厳しいと思うが、そこに学年の差を理由にして無理なことを要求する的なゴリ押しはなく、ただ単に必要だから、一見無茶に思えることを下級生にやらせているのだ、ということを、バッタの間の一件で智香子は理解した。

 高等部と中等部とではそもそも使用している校舎からして別だし、部活などの機会がなければ校内で出会うこともないのだが、一度だけ、その週のうちに、学食で先輩である松風薫にばったり出会ったことがある。

 その時も松風先輩は軽く手を上げて挨拶しただけで、言葉も交わすことなくそのまま別れた。

 部の活動を離れてしまえば、特に後輩と絡もうとはしないものであるらしい。

 それとも、あの松風先輩が、特別な例外なのだろうか。

 ともかく、これまでに智香子が経験した限り、部活活動中こそそれなりに厳しく接することはあっても、それ以外での先輩方のあたりはかなり淡々としていて、いや、それ以前にほとんど存在しなかった。

 それならそれで、気が楽でいいんだけどね。

 と、智香子は思う。


 上級生との関わりがほとんどなかった代わりに、同級生同士の交流は智香子が漠然と予想していたよりも、よほど活発だった。

 なにしろ、人数が多い。

 智香子のクラスだけに限定しても、十名以上はいる。

 兼部組とかガチ勢とか、あるいは智香子自身のように興味本位で入ったライト層など、同じ探索部といってもその内実は様々だったりするのだが、ともかく探索部の人数だけは多かった。

 少し前に記述したように、実際に稼働する日数が限られているからか、余計にその人数の多い一年生たちは、同じ探索部同士で集まって情報交換をすることが多かった。

 智香子もこれまでに考えてきた迷宮に関する想像などを、そうした機会に説明している。

 素直に感心をしてくれる人もいたし、「今さらそんなことをいっているのか」と鼻で笑う人もいた。

 そんな時智香子は、

「そりゃ、入学前に情報収集をしていたガチ勢の人たちから見れば、今さらな内容かも知れないけどさ」

 と、少し、すねた。

 ともかく、同じ探索部一年といってもそれぞれに持っている情報量や情熱の量にはばらつきが多く、智香子は早々に、

「そのうちの全員と仲良くすることは無理そう」

 と、悟ってしまう。

 無理に全員と仲良くする必要もないだろう、と、そうも思った。

 なにしろ探索部の人数は多い。

 その中に、そりが合わない人間がまったく含まれていないはずもなかった。

 基本、パーティを組む人と、パーティを組んでいる時だけ、仲良くできればいいだけだし。

 と、智香子はそうも思う。

 固定パーティを組むようになるまで、智香子自身がこの部活を辞めないで継続できるかどうか、それさえもこの時点では確かではなかった。

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