第23話 効果

 結果、午後の迷宮潜行では、一時間もかからずにバッタの間を全滅させて、ドロップ・アイテム作業まで終わらせてしまった。

 人数的には午前中と同じく、十名のパーティだったのに、格段に短時間で、つまり効率がよくなっている、ということだった。

 また、疲労度的にも格段に違っていて、午前中はそれこそ、迷宮から帰ってきた時点で限界に近いほどの疲れ切っていたのだが、今回は帰ってきた今の時点でも、相当に余裕がある。

 なんだ、これは。

 と、智香子は思う。

 わずか数時間で、この差は。

 内心で、愕然としていた。

「ええ、今日はこれで終わりだから」

 引率役の明石先輩が、智香子たちにそう声をかけてくる。

「委員会の人に回収したアイテム類を引き渡したら、そのまま解散ってことで。

 あ、あと、帰ったらお風呂にでも入って体をほぐして、今日は早めに寝ること。

 明日の朝から授業があるんだから、くれぐれも、疲れは持ち越さないように」

 その言葉の本当の意味を智香子が実感するのは、翌朝起きた時のことになる。


「や」

 別のパーティとして迷宮内に入っていた黎が、智香子に声をかけてきた。

「どうだった、そっちは?」

「なんか、拍子抜けした」

 ほぼ反射的に、智香子はそう答えている。

「想像していた以上に、簡単だったっていうか。

 それこそ、午前中とは比較にならないくらい」

「長めに昼休憩取ったし、それに累積効果があるからね」

「……累積効果?」

「わかりやすくいうと、ゲームでいう経験値的な。

 スキルだけではなくて、エネミーを倒せば倒すほど、探索者の能力はあがる」

 そんな仕掛けが。

 と、智香子は内心で呆れる。

 なんとご都合主義的な。

「あ、でも」

 智香子は、あることに気づいて声を出した。

「倒したエネミーの数が問題なら、あのバッタの間を全滅なんかさせたら……」

「そう」

 黎は、したり顔で頷いた。

「それだけで、効率的なレベリングになるね。

 ある程度人数を集めることができる、松濤女子みたいな集団にしかできない方法だけど」

 資格取得時に、実習として迷宮に入ったことはあったが、それを除けば智香子が迷宮に入ったのは昨日と今日の、わずかに二日間だけだった。

 その二日間だけで、智香子たち新入生組は、そこそこ地力を蓄えた。

 と、そういうことなのだろう。

 あくまで、「初心者としては」という但し書きはつくのだろうが。

 これから迷宮内でなにをするにしても、その、最低限の地力があるのとないのとでは、パーティを組む他の人たちにとっても、扱いが大きく違ってくるわけで。

 要は、

「足手まといの状態から、速やかに脱却しろ」

 と、いうことなのかな。

 と、智香子は思う。

 先輩方から見れば、そうことなのだろう。


「この後どうする?

 まだ時間的に早いけど」

 考え事をしている智香子に、黎が声をかけてくる。

「どっかに寄って休んでいく?」

「うーん」

 智香子は、少し躊躇った。

「寄りたいけど、お金がねー」

 なけなしの小遣いは、昨日の購買部でかなり消費してしまっていた。

 中学生にとっては、あの程度の値段でも大金ではあるのだ。

「ジュースくらいなら、奢るよ?」

「じゃあ行く」


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