第162話 利潤の行方

「あの」

 香椎さんが軽く片手を揚げて発言した。

「質問があるのですが」

「いってみて」

 千景先輩は軽い口調で応じる。

「わかる範囲内ならこの場で答えるけど」

「それじゃあ」

 香椎さんは小さく咳払いをしてから、そういう。

「あの。

 不要のアイテムなんかも売りに出すわけですよね?

 そうすると、総額でかなりの現金になるはずなのですけど。

 兼部組の部費とか探索者用の装備とかを買うにしても、かなりの金額が残ると思うんですけど」

「ああ、経理関係ね」

 千景先輩は開いたままだったノートパソコンを操作し、その画面を智香子たち一年生に示した。

「香椎さんがいった通り、うちの部活ではかなりのお金が残ります。

 それは部費や備品などを買いそろえて、その他の必要経費もさっ引いた上で、です。

 これは昨年度の帳簿になるわけですが」

 その画面を見つめて、智香子たち一年生組四人はひたすら目を見開いた。

「な、なんか」

「ああ。

 ゼロがいっぱい」

「想像していたのと、桁数が違う」

 口々に、そんな感想を漏らす。

「で、では!」

 香椎さんが勢い込んで質問を続ける。

「このお金は、どこに消えているんですか?」

「別に消えてはいないよ」

 千景先輩は平静な口調でそう返す。

「年度末に会計を一度締めて、その上で次の年度に必要な予算を残し、残りは……」

「残りは?」

 佐治さんが身を乗り出して固唾を飲んだ。

「信用のできる慈善事業団体にまとめて寄付をしています」

 千景先輩が続けた言葉を聞いて、佐治さんはがっくりと肩を落としてため息をついた。

「寄付!」

 なぜか、香椎さんが大きな声を出す。

「これだけの金額をぽんとどこかにあげちゃうんですか!」

「とはいえ、下手にため込んでいても税務署にがっぽりともっていかれりゃうだけだからねえ」

 千景先輩はため息混じりにそういった。

「うちらは、自分たちでは営利目的で活動していないと思っているけど、税務的にはそう処理されない。

 黙ってため込むだけだと半分以上ががっぽりもっていかれるし、かといって部活以外の目的に使うと今度は所得隠しと疑われるしで。

 結局、税金として持っていかれるのを黙ってみているよりは、自分たちで選んだ場所で使って貰う方がいいだろうっていうのが、歴代の委員会の判断なわけだ」

「税金、ですか?」

 智香子は、あえぐようにいった。

「そう、税金。

 税務署の人たちって、特にうちみたいに羽振りのいいところには必ず目をつけているわけでさ。

 迂闊に使途不明金などを作ろうものなら、がっぽりと追加徴税されるわけ」

 税金逃れのために、必要以上の利潤はどこかに寄付をしている。

 筋道でいえば、決して理解できない内容ではないのだが。

 しかし、と、智香子は思う。

 金額が、金額だからなあ。

 この帳簿をざっと見ただけで、この委員会は年間億円単位の金額を平然と動かしていることがわかる。

 智香子の意識を軽く飛ばすのに十分な金額といえた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る