第161話 〈風切りの槍〉
「役得、っていっても実際にはそんなにたいしたものでもないんだけど」
千景先輩はそう続けた。
「委員会の仕事もこれでなかなか大変だから、それくらいの役得はないとね」
「それくらいの役得って」
すかさず、香椎さんが確認する。
「具体的にどの程度のグレードのアイテムがドロップするんですか?」
「グレード、かあ」
千景先輩は少し思案顔になる。
「ドロップするアイテムにばらつきがあるから、あんまりはっきりとした保証はないんだけど。
そうね。
何回かそこにいけば、初心者からこの学校を卒業するまでは十分に使えるグレードのアイテムは手に入れられるはず」
「そんなにポンポンとアイテムがドロップする場所なんですか?」
智香子が疑問の声をあげた。
だとすれば、画期的な発見であり、委員会だけでその場所を独占しているのはかなりまずいのではないか。
「いや、ドロップする確率は別の場所と大差ないよ」
千景先輩はそういって自分の顔の前で平手を振った。
「せいぜい一パーセント前後?
まあ、その程度。
でも、ドロップするアイテムがほとんど武器や装備品とか、探索者にしか使い道がないような物になっているってだけで。
そうね、たとえば……」
そういって千景先輩は手のひらを上に向けて、右手を突き出す。
その手のひらの上に、唐突に見覚えのある〈槍〉が出現した。
例の、少し前に〈バッタの間〉にいった時に、千景先輩が使っていた〈槍〉で、つまりは千景先輩が自分の〈フクロ〉からこの場で取り出したのだろう。
「冬馬さん、〈鑑定〉持っていたよね。
これ、〈鑑定〉をしてみて」
「はい」
智香子はその〈槍〉に視線を凝らして、〈鑑定〉のスキルを使ってみる。
とはいえ、実際に智香子がやることといえば、その場でその〈槍〉に意識を集中することくらいなのだが。
〈鑑定〉のスキルを使用した結果、その〈槍〉は〈風切りの槍〉という名であることが判明した。
「風を操る機能を持った槍、ですか?」
智香子は、〈鑑定〉スキルで読み取った情報を披露する。
「そう、あなたの〈杖〉と同じ。
これを持っていれば多少は風を操ることができて、しばらく使用し続けると、風系統のスキルを使えるようになる。
でもそれはあくまで付加的な効果で、実戦の場ではあまり攻撃力に転嫁されるわけではない。
その程度のアイテム」
〈杖〉と〈槍〉を兼ねた機能を持つアイテム、というわけか。
智香子は少し考えた。
千景先輩がいった通り、性能面から見れば、取り立てて便利だったり攻撃力があがったりするアイテムではないらしい。
この〈槍〉を仮に売りに出したとしても、そんなに高値では売れないだろうな、と、智香子は思う。
希少性はともかく、高価で売買されるアイテムというのは、ほとんどそれだけ強力で探索者にとって役に立つアイテムに限られるからだ。
この〈槍〉は、これ単体で使っても、探索者の攻撃力やその他の能力を飛躍的に増大させるわけではない。
「それ、その場所でドロップしたもんなんすか?」
佐治さんが、のんびりとした口調で確認してきた。
「それと、武器としての性能は?」
「そう、その場所でドロップしたもの」
千景先輩は即答をする。
「性能については、〈鑑定〉持ちの冬馬さんに聞いた方がいいんじゃない?」
「〈劣化遅延〉と〈自動補修〉がついていますね」
智香子が答えた。
「刃の部分がとりたてて鋭利というわけではないですけど。
でも、普通に使っていたほとんど手入れをしなくても切れ味が落ちることはないと思います」
「ご名答」
千景先輩はいった。
「特別に強力ってわけではないけど、タフで使いやすく壊れにくい。
部活で使う分には、この程度で十分なんじゃない?」
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