第160話 在庫アイテムの内訳
「それで、その多少は使えるアイテムにしても」
千景先輩はさらに説明を続ける。
「まず、めぼしい性能の物は回収したパーティの人が取っちゃう」
迷宮内で入手したアイテムの所有権は、まずそのアイテムを回収したパーティが優先的に持つ。
この原則は探索者全員が共有しており、この松濤女子の中でもその事情は変わらなかった。
実際には、実力がありエネミー討伐にも貢献が大きい先輩から順番にそのアイテムを欲しいかどうか確認され、上級生が誰も欲しがらなかった場合にのみ、一年生にも声がかかる形だ。
この委員会のところにまで持ち込まれるアイテムというのは、つまりはなんらかの事情により誰も欲しがらなかった代物ということになる。
そのことは、智香子たち四人も重々承知していた。
「だから、今倉庫の中に眠っているアイテムは、つまるところ誰も欲しがらない、なんらかの難点を持ってアイテムってことになるね」
千景先輩は、そう断言をする。
「その難点も、種類はいろいろなんだけど。
単純に、そこまで欲しい性能ではないってパターンが一番多いんだけど、それ以外に、癖がありすぎて誰も使いこなす自信がなかったり、性能自体はいいんだけど、使用条件が厳しかったり。
そんな余り物でよければ、今この場であげちゃうけど」
そういって千景先輩は、見ていたノートパソコンの向きを変えて、智香子たちの方からも画面を見えるようにする。
画面には、そうした在庫のアイテム類のデータが写真付きで表計算アプリに整理された内容が映し出されていた。
智香子がその詳細を検分しようとするよりも早く、香椎さんと佐治さんの二人が身を乗り出すようにしてその内容を見はじめる。
しかし、そんなに長く見ていたわけではなく、画面をスクロースして数秒見ただけで、
「ああ」
とか、
「これは」
とか、ため息と諦観とが入り交じった口調でいった。
どうやらその内容に、すぐに失望をしたらしい。
「まあ、残っているだけはあるかな」
「今のわたしたちには使いこなせない物がほとんどね」
「具体的には?」
智香子といっしょで、すぐに画面に食いつかなかった黎が、二人に訊ねる。
「もの凄く重たかったり、特定のスキルを持っていないと使えなかったり」
佐治さんが、即答をする。
「〈ライトニング・ストーム〉必須ってなんだよ。
先輩方だってそんな大技、使えやしない」
確か、威力は絶大、有効射程距離一キロ以上という破格の威力を誇るスキルだった。
その分習得するのも難しく、数年から場合によっては十年以上も探索者としての経験を積まないと使用不能だといわれている。
智香子たちも夏に経験したビーチの特殊階層で、そうした強大なスキルが使用されている現場は遠目に目撃していた。
ただ、智香子たち探索者として一年未満の経験しかないひよっこにしてみれば、そうしたスキルを使用可能なことが最低限の条件ということになれば、当然そんなアイテムは貰っても活用のしようがない。
完全に、宝の持ち腐れ状態だった。
「まあ、こうして売れ残ったアイテムは、しばらく在庫として保管して様子を見て、それでも誰も引き取り手が現れなかったら、そのまま売りに出す形になるんだけど」
千景先輩は、そんな智香子たちの反応を冷ややかに見ながら、そういった。
「低性能な物は、二束三文になるけど公社がまとめて引き取ってくれるし、性能が高すぎて持て余している物は定期的にオークションに出して処分しているわけで」
「この前、ドロップ率がいい特殊階層があるっていってましたよね?」
香椎さんが、真剣な面持ちで千景先輩に確認をした。
「うん、それは本当」
千景先輩は、あっさりと頷く。
「別に嘘をつく必要もないし。
ただそこへは、委員会の子以外を案内してはいけないってことになっているの」
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