第159話 千景先輩の説明

 制服姿の千景先輩はどこにでもいる、どちらかというと地味目の女子高生に見えた。

 なにしろ、セルフレームのめがねは仕方がないにしても、今時髪を編んでおさげにしている。

 この千景先輩が同級生とか上級生から「委員長」呼ばわりされているところを智香子は何度か目撃しているのだが、現在高等部一年生の千景先輩がこの委員会をまとめているはずもなく、そのあだ名はあくまで千景先輩個人の外見から来ているはずだ。

 普段、智香子たちがこの千景先輩と対面する時、千景先輩は保護服とヘルメットを身につけた探索者姿であることがほとんどだった。

 しかしこうして制服姿の千景先輩を改めて見てみると。

 うん。

 と、智香子は思う。

 地味、というよりどこか時代錯誤、何世代か前の女子高生に見える。

「なに、冬馬さん?」

 智香子の視線を感じたのか、千景先輩がそう訊いてくる。

「なにかついている?」

「いえ」

 智香子はぼんやりと答えた。

「その髪型、珍しかったので」

「ああ、これ」

 千景先輩は長めのおさげを片手で持って、自分の顔の前で軽く振る。

「凄いくせっ毛でね。

 こうしてまとめてないと、こう、ぼわっと広がっちゃうの。

 梅雨時とか湿気の多い季節はもう大変」

「ショートにするとかは?」

 佐治さんが、そういう。

「よっぽど短くしないと、やっぱりこう、横にひろがっちゃう」

 千景先輩はうんざりした表情でそういった。

「ストレートパーマとかかけるも面倒だし、結局この髪型が一番楽なの」

 どうやら千景先輩は、ものすごいくせっ毛であるようだった。

「まあ、わたしの髪型のことなんかどうでもいいんだけど」

 そういって、千景先輩は話題を元に戻す。

「委員会に入ると、いろんな経験を積めるのはもちろんのこと、それ以外にも特典はあるよ」

「アイテムですか?」

 速攻で、香椎さんが確認してくる。

「うん。

 アイテムもそうだね」

 千景先輩は軽く頷いてから机の上に置きっぱなしだったノートパソコンを開き、電源を入れた。

「アイテムのドロップ率てどれくらいかわかるかな?」

「詳しい数字はわかりませんが」

 智香子は即答する。

「おそらく、一パーセント以下ではないでしょうか?」

 別に詳しい統計を見ていなくても、普通に迷宮に出入りをしていればそれくらいだろうという推測はできる。

「うん。

 階層によって多少ばらつきがあるんだけど、コンマ五パーセント前後だね」

 千景先輩はソートパソコンの画面に視線を向けながら、そういった。

「で、それくらい低確率のドロップ率のうち、さらに大半がコインとか短剣とか、ほとんどスクラップ同然の無価値な物。

 それを取り除いた残りが、武器とか装備品とか換金するとおいしいアイテムとか、どうにか探索者の実用に耐えるアイテムになるわけだ」

「でも、うちの場合は」

 佐治さんが、さらに訊ねた。

「あれだけ大勢の生徒が毎日のように迷宮に入っているわけで。

 全体としてみると、ドロップしたアイテムの量もかなりの数になるのでは?」

「数だけをみれば、スクラップ以外の使えるアイテムだけに限っても、平均して一日あたり三桁くらいは集まってくるね」

 千景先輩はあっさりと教えてくれた。

「でもそれは、かろうじて使える程度のアイテムなわけで。

 その中から多少でも使いでがあるアイテムとなると、さらに絞られる。

 まあ、あまりニーズがないアイテムとか在庫とかぶっているアイテムなんかは、定期的に売り払って現金に換えているんで、まったく無駄でもないんだけど。

 実質、そうしたかろうじて使えるアイテムも、そのほとんどは初心者にしか意味がない、性能的に劣った代物だと思った方がいい」

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