第78話 第一階層、再び

「そっち!」

 智香子が〈杖〉をかざして叫ぶと、そちらの、〈杖〉延長線上に雷撃がほとばしる。

〈ラントニング・ショット〉のスキルにより発射された雷撃の弾丸はそのまままっすぐ飛んでいき、群れをなして飛んでいたコウモリ型の中央付近を通過した。

 何匹かのコウモリ型が感電して地面の上に落ちていったが、残りのほとんどは智香子が属しているパーティの方に向かって来る。

 その群れに向かって智香子は〈ライトニング・ショット〉を連発し、パーティの他のメンバーもそれぞれの武器を構えて迎撃をする体制を整えた。


 今回のパーティには、遠距離攻撃用のスキルを使用する者は智香子一人しかいない。

 松濤女子は、弓道部との兼部組を除けば遠距離攻撃用の手段を学ぶ者が極端に少なく、弓道部組は固まってパーティを組むことが多いため、こういう偏った構成になることも決して珍しくはなかった。

 以前、智香子は、

「なんでみんな遠距離用のスキルをおぼえようとしないのだろう?」

 と疑問に思っていたが、何度か迷宮に入って〈ライトニング・ショット〉を実戦の場で使ってみると、すぐにその理由に思い当たる。

〈ライトニング・ショット〉をはじめとする遠距離用の攻撃スキルは、少なくともおぼえたての段階では、威力がとても小さい。

 一発あたりのダメージ量で近距離からのスキル攻撃とは比較にならないほどで、攻撃手段としては確実性に欠ける。

 例をあげると、智香子の〈ライトニング・ショット〉で浅い階層のエネミーを感電死させることは「運がよければ可能」という程度だったが、少し深い階層になるとエネミーの体も大きくなる傾向があった。

 エネミーの体が大きくなれば電撃への耐性も自然と強化をされるわけで、今の時点で智香子が使用する〈ライトニング・ショット〉程度の威力では、少し怯ませる程度のことしかできなくなる。

 つまり、

「牽制程度には使えるけど、確実にダメージを与えるまでには至らない」

 という程度に止まり、そんな遠距離用のスキルをあえておぼえようとする一年生はあまりいなかった。

 同じ遠距離用スキルであっても弓道部組が使う〈梓弓〉は物理的なダメージを与えるスキルであり、近距離攻撃用のスキルと遜色のない打撃を与えることが可能だったり、あるいはそんな遠距離攻撃用のスキルであっても上位のスキルを順調におぼえていけばより長い飛距離と大きな威力を与えるものも習得可能だというが、少なくともその初期の段階ではあまりにも「魅力的ではなかった」のだ。

 他の探索者の事情については、智香子は詳しくはなかったが、松濤女子の場合、

「エネミーに対しては速攻に潰す。

 一刻も早く潰す」

 という明確な方針があったので、なおさら威力において劣る遠距離攻撃用のスキルは人気がなかった。

 そんな不人気なスキルをあえておぼてしまった智香子は、〈察知〉のスキルと同時に使用することで、どうにか〈ライトニング・ショット〉を有用な物にしている。

 パーティの誰よりも早くエネミーの接近を〈察知〉し、その位置を他のメンバーに示すと同時に先制攻撃を加える。

 それがここ最近、智香子が自分自分に課している仕事であった。


 智香子以外のパーティメンバーは完全に態勢を整えた上で、飛来するコウモリ型を迎撃した。

 ほぼ全員が盾を装備し、それをコウモリ型に叩きつけながら、もう片方の手で別の武器を振るっている。

 剣だったり槍だったりメイスだったり、その種類はまちまちであったが、この頃はそうした様子もかなり様になってきていた。

 片手に盾を持ちながら戦うやり方に、もうかなり慣れてきているのだ。

 それに、ここが第一階層でエネミーが弱いということも影響している。

 そこのことが心理的な余裕をうみ、落ち着いて冷静に、対処できていた。

 実際コウモリ型ほど小さいエネミーならば、盾で叩く程度でもあっさりと倒せてしまう場合が少なくはない。

 浅い階層に出没するエネミーの難点は個々の強さというよりも、一度に出てくる数の多さなのであった。

 こちらも人数を揃えた上で落ち着いて対処さえできれば、そんなに苦労をする相手でもない。

 それにエネミー数が多いということは、それだけスキルを鍛えるためにも有用でもあった。

 基本的にスキルとは使えば使うほど、攻撃用のスキルであれば、そのスキルを使用して倒したエネミーの数が多いほど、早く育つ。

 松濤女子がこうした浅い階層やバッタの間を繰り返し使うのは、つまりは一年生たちを早く実戦で通用するレベルにまで育てあげるためだった。

 おそらくは長年の試行錯誤の末、現在のような形に落ち着いたのであろうが、そのメソッドはかなり効果的だと智香子も評価している。

 もっとも、大量の初心者を一度に育てることが可能な探索者の組織が松濤女子以外にあとどれだけ存在するのかといったら、こらはかなり疑問でもあった。

 松濤女子では有用であっても、他の探索者には容易に真似ができない。

 そんなメソッドでもある。


 智香子たちは再度、一年生を主体としたパーティを組んだ上で第一階層に挑んでいた。

 引率役以外は全員一年生のパーティになるわけだが、その目的も依然と同じく、迷宮内での判断力を養うためのものだった。

 対エネミー戦に関しては、ほぼ全員が累積効果のお陰で以前よりも能力が強化されているため、第一階層に出没する程度のエネミーならなんの問題にもならなかった。

 以前と比較をすると、拍子抜けするほどあっさりと倒せるようになっている。

 累積効果のおかげでエネミーの動きが遅く感じられるほどで、接触から一分も経たずにエネミーの集団を全滅させていることも決して珍しくはなかった。

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