第77話 〈盾術〉
登校した智香子は演劇部の発声練習や吹奏楽部の音合わせなどが切れ切れに聞こえてくる校庭を経由して校舎内に入り、迷宮との連絡路近くの、探索部員の溜まり場になっている教室へと急ぐ。
こうした溜まり場と化している教室は複数あったが、大まかに学年別に使用する教室が決まっていた。
少なくとも、高等部の生徒と中等部の生徒が同じ教室内で着替えたり休憩したりすることはほとんどない。
同じような学年同士で集まる方がお互いに気が楽だから、自然とそうなるらしかった。
中等部一年がよく使う教室内に入ると、黎と香椎さんその他の一年生たちがなどはすでに着替えを終えてだべっていた。
ありがたいことに松濤女子ではすべての教室に空調設備が入っているので、智香子は教室に入った瞬間から外の暑さから解放をされる。
顔見知りの一年生たちと挨拶を交わしながら智香子は〈フクロ〉の中に放り込んでいた保護服や装備一式を出して手早く着替えはじめる。
〈フクロ〉のスキルを使いこなすようになると、着ている服を瞬時に別の物に変えるような芸当もできるということだったが、智香子はまだそこまでの域に達していない。
というより、そうした早着替えにあまり意味を見いだせなかったので、〈フクロ〉のそういう使い方を練習したことがない。
黎たちや香椎さんたちは、最近生やすようにしているスキルのことを話題にしておしゃべりをしていた。
視聴覚教室で青島先輩に諭された一件から、ガチ勢の子たちは盾を持つことが多くなった。
初心者向けの、透明な強化樹脂製の盾である。
軽量で、視界を遮らず、そこそこに硬い。
少なくとも、迷宮でも浅い層に入るだけならば、この程度の盾でも十分に用を果たせるのだった。
性能に寄らず、そうした盾を手にした状態でエネミーとの交戦を繰り返すと、ほとんどの人間は〈盾術〉というスキルを生やすことができる。
最近、一年生の多くは、その〈盾術〉を生やしさらにその系統の上位のスキルを習得しようとしているところだった。
智香子が〈ライトニング・ショット〉を生やすのには一日迷宮に入っただけで十分だったが、〈盾術〉を生やすためにはもう少し余計に時間が必要となるらしい。
まあ、自分の体でエネミーを止めるよりは、盾で弾く方が安全だよね。
と、智香子は思う。
当然、盾を片手で持てばそれまで両手で持っていた武器ももう片方の手だけで扱うしかなくなるわけで、最近になって盾を使いはじめた子の中には、それまで使っていた武器を別の種類の物に持ち替えた子も少なからず含まれている。
智香子のように両手で扱うような長い棒や槍などを、片手に盾を構えたままで扱うのは難しかった。
少なくとも、咄嗟に反応ができるくらいにまで扱いに熟練するのは、現実問題として難しかった。
重さというよりりは、得物の重量バランスの問題であり、たとえば以前から両手持ちの長剣を使用していた香椎さんなどは、〈盾術〉を鍛えはじめた今でも同じ長剣を片手で使用している。
累積効果により智香子たち一年生の(迷宮内での)腕力も相当に強化されており、両手持ちの武器を片手で振り回す程度のことは誰でも問題なくできるようになっていたのだ。
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