第220話 より深い階層に

 智香子たちは委員会の仕事だけをやっていたわけではなく、探索部員として普通に迷宮に入る機会は増えていた。

 前述したように、卒業してからも協力してくれる先輩方やそれに扶桑さんとの提携が本格的に始動したため、迷宮に入れるパーティの数が少し前と比較しても格段に増えている。

 智香子たちも、春休みに入ってから、その恩恵を得ている形だった。

 このうちの後者、扶桑さんの会社との提携は、春休み中はシステム上の不備を洗い出すための試用期間という位置づけであったが、実施的には本番と同じような座組で連日稼働していた。

 本番と同じような使い方をしなければ、不具合を潰せないという事情もあったが、それ以上に、これ以上にもったいをつけても扶桑さんの会社にとってメリットがなく、松濤女子の探索部員の人員を有効に活用できないから、という理由の方が大きかった。

 SNSシステム上の、いわゆるバグはすでに何件か報告されて頼んでいる業者に報告し、修正をして貰っている。

 今のところ、どれも細かい不具合であり、システムの基幹に関わるような大きな不具合は見つかっていなかった。

 頼んでいる業者によると、おそらくはこのまま新学期に本格的に稼働をさせても問題はないだろう、といわれている。

 つまりは、これまでのところ扶桑さんの会社との提携について大きな障害となるものはなにも見当たらず、かなりうまくいっているといってよかった。

 そうした次第で、智香子たちも必要以上に手を取られることもなく、他の部員たちに混ざって堂々と迷宮に入ることができるわけである。


 三学期までと大きな違いは、智香子たち最下級生もそれまで以上に深い階層まで立ち入ることを許されたこと、になる。

 智香子たちの学年はこの春に二年生に進級するわけだが、松濤女子ではもともとその時期を見計らってさらに深い階層に踏み入れることが許されるらしかった。

 一年も場数を踏めば、迷宮という特殊な環境にも相応に慣れただろうということと、それにいつまでも浅い階層ばかりをうろついていても、経験値的にうまみがない、というこらしい。

 より深い階層へ、といっても十階層前後までしか出入りを許されていなかったのが、せいぜい二十階層前後にまで降りることを許された程度であり、たいした差はないともいえたが、それでも進歩は進歩だった。

 松濤女子は、この手の判断にはかなり慎重であり、過去の事例を見ても今の智香子たちであればそれくらいの階層までは問題がないと、そう判断をされていることになる。

 本当に大丈夫かな、などと、かえって智香子の方が心配になるほどだった。

 スイギュウ型くらいまでならば、智香子たち四人だけでもどうにか相手になる気がするが、それ以上の大物、たとえばクマ型などと遭遇したら、一年生だけではかなりキツい気もする。

 とはいえ、一年生だけで迷宮に入る機会というのは原則的にはあり得ないはずでもあったし、あまり気にしすぎても仕方がないか。

 と、智香子は割り切ることにした。


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