第219話 探索者の学び方

 結局。

 と、智香子は思う。

 どこまで細心の注意を払って、リスクを軽減していくか。

 一番大事なのは、そこなんだろうな。

 と。

 専業の、お金のために探索者をしている人たちは、また別の見解があるのかも知れなかったが、幸いないことに智香子たちは部活として探索者をやっている。

 そうである以上、ドロップ・アイテムや自分自身の成長を促すことよりも、「迷宮内でロストしないこと」こそを最優先課題に設定するのは、ごく自然なことに思えた。

 無事に生還して来さえすれば、それ以外のことはたいがい、時間さえかければ解決が可能なのである。

 松濤女子の場合、先輩方が蓄積したメソッドを後輩に伝え、委員会がしているような組織的な支援を行う体制が完成しているので、探索者をはじめる人にとってはかなり恵まれた環境にある、といえた。

 智香子自身、こうした至れり尽くせりの環境でなければ、ここまで探索者を続けられたのかどうかかなり疑わしい。

 むしろ。

 と、智香子は疑問に思う。

 一般の探索者は、あまり集団を作らない傾向が強いと聞く。

 だとすると、どうやって「探索者としてやっていき方」を学ぶんだろうか?

 一応、探索者の資格を取得する際、数日間、実習も含めた研修は探索者であれば誰でも受けているはずであり、智香子自身もその研修を受けた結果探索者として活動可能になっているわけだが。

 あの研修は、本当必要最低限のことしか教えてくれていない。

 あの研修だけ受けて、自力で探索者としてやっていける人がいたとしたら、かなり運がいいのか無謀なのか、それともかなり捨て鉢になった人なんだろうな。

 いや、普通の人は、パーティを組んでくれるような知り合いがいるという前提くらいなければ、探索者の資格を取ろうとも思わないのか。

 松濤女子ほど大規模ではないものの、一種の徒弟制度のような関係が緩やかに続いているのかも知れないな。

 などと智香子は想像する。

 そうとでも考えなければ、危険を軽減するための方法を含む細かい知識が必要とされる探索者稼業は、とてもではないがリスクが大きすぎる気がした。

 そうした、校外の、大人の探索者たちと接触を持つ機会を、これまで智香子たちはあまり持ってこなかった。

 強いていえば、扶桑さんの会社がそうだともいえたが、あそこはあそこで松濤女子とは違った意味で、探索者の中でも特殊な人たちが集まっている、という気もする。

 少なくも、あそこに集まった女性たちが探索者社会の中で標準的な人員には思えなかった。

 そういう一般的な探索者については、このまま部活を続けていけば、いずれ知る機会もあるだろう。

 智香子は、そう考えて以降、その周辺のことについて考えることを止めた。

 他に考えるべきことが、いくらでもあったからである。


 智香子たち四人は、相変わらず委員会の中では別同班として扱われていた。

 この四人だけでもかなり効率よく、それまで死蔵されていたアイテム類の有効活用法を開発していたからである。

 それ以前に、扶桑さんの会社との提携を提案したのも実質的にはこの四人組であり、そうした実績のおかげで評価をされている形であった。

 とはいえ、評価といっても社会人ではない智香子たちは、給与その他の待遇が変わるわけでもない。

 せいぜい、上級生の委員から一目置かれる程度のことでしかないわけだが。

 なんだかなあ。

 と、智香子は思う。

 なんだかんだいって、智香子が他の三人に扱い方を教えたので、いつの間にか三人ともオフィスソフトの扱いに習熟してしまっている。

 保管しているアイテム類や備品はデータベースで管理されていたし、その他にもプレゼンテーション用のアプリなんかも頻繁に使っていた。

 上級生とか先生とかに、アイテム類の使用方法をプレゼンする機会が以外に多かったせいだ。

 こんなことをしている中学生も、他にはほとんどいないだろうな。

 などと、智香子は思う。


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