第228話 ガイドラインの必要性

「危ない場所には近寄らない」

 勝呂先生が委員会が使っている教室から出て行ってから、佐治さんはそういった。

「防犯っていうか、護身法の基本といえばこれに限るんだけど」

「でも、それをいったら探索者として迷宮に入ることもできないわけで」

 香椎さんが、そう続ける。

「学校側も探索者になることを禁じていない以上、より安全な方法を提示しようとするのは当然な気もするけど」

「実際、外部の探索者と頻繁に接触するようになれば、自然と校外でパーティを組む機会も増える。

 と、思うけど」

 黎も、そういう。

「部活で迷宮に入っても、お金にはならないからね。

 だからまあ、学校側としてはあんまり無軌道なことになる前に釘を刺しておきたいんじゃないかな」

「それはいいとして」

 智香子はいった。

「常識的な線で、っていわれてもねえ」

 智香子はいくつかの理由により戸惑いを感じていた。

 勝呂先生にもいったが、

「なんで自分たちのような立場の者が、こんな重要な仕事を任されるのか」

 という点が、一番納得がいかない。

「とにかく目的としては、うちの生徒がトラブルに巻き込まれるのを防止すること、になるのかな?」

 佐治さんが、確認をした。

「勝呂先生はそういっていたね」

 その言葉に、香椎さんが頷く。

「きっちりとしたルールよりは、もっと緩いガイドラインでいい、ともいっていたけど」

「それはさ、あれじゃない」

 黎が、そんなことをいい出す。

「多分、生徒というよりは保護者とか、生徒周辺の大人たちの反応を先読みして、というか。

 ぶっちゃけ、クレーム対策のために、最初から予防線を張っておこうっていう」

「なるほど」

 智香子は黎の意見に頷く。

「だから、生徒が自主的にこういうガイドラインを示しました、って事実が必要になるわけか」

 そうしたガイドラインを提示してから、なおもあまり素行がよろしくない大人たちとパーティを組もうとする生徒に関しては、その結果についても自己責任ということで処理ができる。

 少なくとも、学校側としては、

「事前に注意事項を提示して、それに従って行動をするように指導しています」

 という既成事実を作ることにはなるのだ。

 しかも、教師などの大人が上から一方的に押しつける規則などではなく、生徒が自主的に作成したガイドラインともなれば、それを無視してなにか合った場合、当人の責任もそれだけ重くなる。

 いや前提として一番悪いのは、当然、害意を持って生徒に近寄って来るような大人なわけだが。

「そういうことなら」

 少し考えてから、智香子はいった。

「常識的な線で考えていけばいいのかな?」


「これまでも、松濤女子の子が校外の大人とパーティを組むことはあったんでしょ?」

 香椎さんが、黎に顔をむけて確認をする。

「うちの生徒で、外部の探索者と知り合いの子もそれなりにいただろうし」

「探索者の社会も、広いようで狭いからね」

 黎は、そういって頷いた。

「父兄とか親類とかが探索者、って人もそれなりにいるし、そういう人と外でパーティを組むことはそんなに珍しくもないよ」

 智香子たち自身も、黎の親類を頼って〈白金台迷宮〉に遠征した経験があるくらいだ。

「今回のは、そうした知り合いではなく、不特定多数の探索者とパーティを組むことのリスクについて、説明するためのものなんだよね?」

 佐治さんは、そういう。

「つき合いが浅い人の誘いには気軽に乗らない、ってのは基本として。

 それ以外に注意するとすれば、一人だけで大人のパーティについていかない、かなあ。

 複数、できれば三人以上で参加すれば、相手が多少おかしな言動をしてもどうにか逃げ切れると思う」

「そのうちの一人は、〈フラグ〉のスキルを持っていれば、なおいいかな」

 香椎さんは、そう続けた。

「そうすれば、おかしな雰囲気になった時にも、自分たちだけで逃げることができるし」


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