第227話 勝呂先生の依頼
「新学期に入る前に、校外の人とパーティを組む時の指針、みたいなのをまとめておいてくれないかな」
春休みを半分ほど消化したある日、智香子たちは勝呂先生にそういい渡された。
「はあ」
他の三人がなにもいわなかったので、智香子が代表してそういった。
「でもそういう規則は、出来れば学校側から出した方がいいと思いますが」
「それだと、かえって身構えちゃうでしょ」
勝呂先生は、そういう。
「この手のことは、上から押しつけるよりは生徒側で細かいことを決めた方がいいと思うんだよね」
そんなもんかなあ、と、智香子は思う。
新学期から扶桑さんの会社の協働事業が本格的にはじまるわけだが、そうなると探索部の生徒たちも外部の大人と接触する機会が必然的に多くなる。
学校側がセッティングする以外の場所でパーティを組むように誘われる機会も、自然に多くなるはずであった。
その場合、扶桑さんの会社が育成している探索者が相手になるはずだったで、でも扶桑さんの会社を利用している人たち全員を無条件に信用できるわけでもない。
探索者の育成という扶桑さんの会社の仕事を考えると、その利用者は絶えず入れ替わっているはずだし、その全員が人格的な面で信用がおける保証はなかった。
さらにいえば、迷宮の中は一種の無法地帯であり、そこでなにがあろうとも外部からの干渉は事実上不可能になる。
実際、過去には迷宮内で探索者同士が衝突し、傷害や殺害沙汰になる例も度々起こっていた。
そうした人間同士の諍いによって探索者が死傷するケースは、発覚している総数の数倍以上になるのではないかと推測する者も多かった。
今はヘルメットにビデオカメラを内蔵し、探索者全員にその着用を義務ずけるなどのルールを設けて迷宮内での不祥事を減らすようにしているのだが、そうした規制が明文化する以前は、探索者社会全体が今よりもずっと荒っぽい雰囲気だったらしい。
ともかく、探索部の生徒たちが自主的に誰か校外の大人とパーティを組むことを防ぐことは事実上不可能だったが、それでもそうした探索者同士のトラブルが発生しにくい条件を設けることはできる。
そのためのルールを、勝呂先生は智香子たちに依頼をしたわけだった。
「そういうの、生徒が自主的に作った方がいいのかも知れませんけど」
智香子は、一応抵抗してみた。
「ならせめて、先輩方とか、もっと年上の経験がある人に任せるべきじゃないですか?」
なんといっても智香子たちは若すぎる。
年齢を度外視するにしても、探索者としての経験もこの時点でようやく一年程度でしかない。
客観的に見ても、最下級生である智香子たちが適任だとは思えないのだった。
「他の委員の子たちは、この時期は特に忙しいから」
勝呂先生は臆することなくそういってのけた。
「それに、扶桑さんとことの関連で一番詳しいのは君たちでしょ?
そんなに難しく考える必要もなくってさ、あくまで常識的な線でまとめて貰えばいいだけだから。
きっちりしたルールというより、もっと緩い、ガイドライン程度の認識で、さ」
「はあ」
智香子は生返事をしてから、他の三人と顔を見合わせる。
「一応、まとめて見ますけど。
でも、最終的には先生も目を通して貰って、ちゃんとダメ出しをしてくださいね」
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