第226話 異常なし

 その面倒なスケジュール調整をまず委員会内部で実施して、すぐに健康診断が実行に移される。

 事前に問診票に必要事項を回答させられていたこともあって、実際の聞き取り検査はあっさりと、時間にして五分もかからずに終わってしまった。

 基本、心身の不調を訴えなければ、そんなに時間がかからないものであるらしい。

 智香子だけではなく、他の生徒たちもそんなもので済んでいる様子だった。

 実際に対面して、なにも問題がなさそうならすぐに終わらせる。

 問題がありそうな生徒を、探索者を早期に発見することが目的になるわけだから、そんなもんなのかも知れない。

 智香子は、そう思うことにする。

 智香子の場合、他の検査で異常などがまったく発見できなかったこともあって、家族との関係や同級生とのつき合いに関していくつか質問に答えただけで終わってしまった。

 智香子の回答自体よりも、智香子がそうした内容を答える時に詰まることがないか、答える時の態度をじっくりと観察されたような気がした。

 なんにも問題がない人間を長々と拘束しても効率が悪い、というのが、聞き取り調査がごく短時間で済んでいる一番であるとは思うのだが。

 いずれにせよ、そうした検査でも特に異常は発見されず、つまりは健康体であると確認されたので智香子としては安心をした。

 ほとんどの生徒は智香子のようにあっさりと解放されたようだが、委員会の中にも何名か、少し長めに時間と取って聞き取りをされた子がいたそうで、そうした生徒はたいてい、先天的な体の不具合を抱えていたり、以前になんらかの傷害を受けて後遺症を抱えていたりする生徒だったようだ。

 そうした情報は本人が公言でもしない限り周囲に知られることはないわけだが、これだけの人数が集まっていればそういう生徒が何名か混ざっていてもおかしくはなく、智香子としても特に不自然とは感じなかった。

 先天的な体の不具合といってもアレルギー疾患などのありふれた、馴染みの深いものも存在するわけで、そうした疾患を抱えている生徒たちがこうした検査の際に念入りに処理されることは、むしろ好ましいのではないか。

 というのが智香子の感覚になる。

 いずれにせよ智香子を含む委員会全員の検査は大きな問題も起こらずにあっさりと終了し、新学期の全探索部員の検査に備えるだけとなった。

 その新学期に入るのと同時に、以前から準備を進めていた扶桑さんの会社との協働事業の方も、準備段階を終えて本格的に始動することになる。

 入学したばかりの、つまり探索者としての経験をまったく積んでいない新入生をそのまま校外の大人に預けるわけにもいかないので、この協働事業は必然的に二年生以上の生徒たちが対象となることになっていた。

 松濤女子探索部としては、稼働する部員数が格段に増える形となる。

 これまでの実験段階とは比較にならないほど多くの生徒たちが扶桑さんの会社のパーティに組み込まれるわけで、そうなればなんらかの問題は発生してくるんだろうな、と、智香子は内心で、そう身構えてもいた。


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