第225話 日程調整の実際

 深刻な悩みを抱えてそうしたカウンセラーを頼る生徒も、どうやら存在はするようだ。

 というのが、智香子の感覚になる。

 智香子自身は、幸運なことに、これまでの人生でそこまで困ったことには遭遇していない。

 同じ学校に通う生徒同士であっても、様々な生徒が存在する。

 そのことは、しっかりと認識しておいた方がいいと、智香子は思う。

 今回の聞き取り検査にしても、目的はそのカウンセリングと同じ。

 まだ顕在化していない問題がないのかどうか、確かめること、なのだろう。

 迷宮に出入りをする探索者が、そうでない人々よりも精神的な問題を抱えやすいとは、智香子は少しも考えていないのだが。

 それを前提にしても、なんらかの問題が早期に発見できるのならば、多少の煩雑さは受け入れるべき、なのだろう。

 面倒なこと、ではあるのだが。


「実際に面倒なんだけどね、検査」

 委員会の先輩方も、口々にそういう。

「でも、リスクを軽減させるっていうのは、こういう面倒くさいことを繰り返し行うっていうことだから」

 その点で、松濤女子探索部の方針、

「安全第一」

 ということを、委員会は徹底して行っている、ともいえた。

 探索者としてのリスクというと、すぐに迷宮内での行動について思い浮かべるわけだが、それ以外にも心身両面の健康被害について、徹底的に検証をして軽減しようとしたら、同じような頻繁に検査を繰り返すしかない。

 中でも、委員会の負担はかなり重かった。

 なにしろ探索部員は人数が多く、兼部している生徒も多く、検査を受ける日時を調整するのもそれだけ面倒になる。

 この検査のためだけに生徒たちに授業を休ませるわけにもいかなかったから、自然と使える時間も限られてくる。

 つまり、平日の放課後か週末や休日になるわけだが、特に兼部組の生徒たちは自分たちの都合を優先して検査を後回しにする傾向が大きかった。

 全校生徒が受ける定期検査のように、全員が集まって一度に検査を受けるのが、日時を指定する側としては一番が管理しやすいのだが、現実的にはこれは不可能だった。

 でもどうするかというと、個々人の部員たちに希望の日時をいくつか指定して貰い、そうした意見を調整して検査を受ける日時を指定する形になる。

〈松濤迷宮〉にも、他の迷宮と同様、すぐ近くに探索者がよく利用する救急病院が存在する。

 つまり、迷宮が入っているビル内の、何フロアかを占有している病院があるので、検査はそこで受けることになる。

「何日の何時に何名の生徒がそちらに行きます」

 といった情報を事前に伝え、予約を入れておけば対応して貰えることになっていた。

 実際に検査をする人たちはそれでよかったが、生徒間の希望を調整して適切な調整を行う委員会の仕事は、結局は人の手に頼るしかない。

 普段行っているパティーの編成については、多少パーティの人数が増減しても誰も気にしないが、外部の人間が相手となると、そこまでアバウトにやるわけにもいかない。

 そうした検査の日程を組む仕事は、委員会が手がける仕事の中でも、かなり面倒な部類に入るなる。



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