第256話 二人の性格
春先は、委員会としての通常業務が普段より多く、その上さらに一年生二人への指導、というほど大仰なものでもないのだが、オフィスアプリの使い方とか委員会の仕事を教えたりする手間も加わった形になる。
ただ、智香子たちは四人で組んで行動することが多かったので、自然とそうした手間も分散され、一人当たりの負担が極端に増えるということもなかった。
人数がいるということは、それだけで強みになるんだな、と、智香子は実感する。
その一年生二人は物覚えがよく、智香子たちが教えたことはすぐに吸収した。
この学校の入試を突破できているのだから、相応に頭は回るはずで、少なくとも智香子たち自身と同程度の知的能力、判断能力が備わっていることは証明されているのも同然だったわけだが、それが実際に証明された形だ。
その二人のうち、世良月は静かで口数が少ない子だったが、最低限のコミュニケーションは取ってくれるので委員会の仕事に支障を来すほどでもない。
ただちょっと、こちらから訊ねないことは自分から語ることがないので、ちょっとなにを考えているのかわからないところはあった。
この子のは独自のコネがあるらしく、校外でも知り合いの探索者といっしょに、頻繁に迷宮に入っているらしい。
そのためか、累積効果や取得するスキルなどの点では、他の一年生たちを大きく引き離すほどの成長ぶりを見せている。
いや、もっと端的にいえば、現時点での二年生、智香子たちに追いつく勢いで成長している。
松濤女子の中ではそこまで探索者としての活動に身を入れている者は実は少なく、なんでそこまで熱心に迷宮に入ろうとするのか、智香子も実はかなり興味を引かれていたのだが、本人にはその理由を尋ねることはしていなかった。
別に悪いことをしているわけではないし、それに、個人的な事情に対して、無闇に踏み込むことに躊躇いを感じたからだ。
案外、正面から訊ねればさらりとその理由を教えてくれそうな気もするのだが。
もう一人の一年生、ただし、入学とほぼ同時に一年間の休学を余儀なくされたため、実際には智香子たちと同じ年齢の柳瀬さんは、片足の膝から先を事故で失うという不運に見舞われた子で、しかし本人はそのことを必要以上に深刻には受け止めていないように見えた。
少なくとも表面上は、ということだが。
事故に関しても、
「運がなかった」
とは考えていても、不幸であったとは考えないようにしているらしく、一貫して快活明朗で人当たりがよく、四人の中では特に佐治さんなんかとウマがあうようだ。
ジャンルが違っても武術に打ち込んだ経験がある者同士ということか、それとも二人の性格によるものか、まあ両方なのだろうが、とにかくこの柳瀬さんは世良月とは対照的に社交的な性格で、誰とでも打ち解けるのが早かった。
この二人は智香子たちが教える内容もすぐに飲み込み、委員会としての仕事を支障なくこなせるようになる。
智香子たちといっしょに行動するうちに、自然と諸々の仕事を呑み込み、短期間のうちに立派な戦力になっていた。
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