第192話 使用方法の検証
智香子は例の円盤を持って自転車に乗り、近くにある河原まで移動する。
外は晴れていたが、空気は冷たかった。
自転車に乗っていると師走の冷たい空気がもろに風に当たって、かなり寒く感じる。
そんな思いをしてまで智香子が外に出たのは、どうしても確認をしておきたいことがあったからだ。
寒いこともあって、河原には智香子以外の人影が見当たらなかった。
その方が、智香子にとっても都合がいいのだが。
智香子は自転車から降りてジャケットのポケットに入れた円盤を取り出し、土手に向けて、まずは普通にフリスビーを投げるような要領で投げてみる。
円盤は、山なりの軌道を描いて土手に、土手のコンクリートに覆われた部分にぶつかり、乾いた音をたてて跳ね返った。
まあ、予想通りだな。
と、智香子は思う。
扁平な形状をしているため、重量がある割には、普通に飛ばすことができる。
投げつけることが可能だとはいっても、命中した際、そんなに大きなダメージを受けることはないだろう。
勢いというか、運動エネルギーの量の問題だ。
さらに、質量的にも、この見た目の割には重く感じるものの、客観的に見ればたいした物でもない。
中心部が円形にくり抜かれていて、なおかつ、この薄さである。
古代の投擲兵器であったという円盤とは、構造が根本的に違っていた。
これをこのまま投げても、たいした効果はない。
ひとまず、智香子はそう結論する。
地面の上に落ちた円盤を拾い上げてから、智香子は円盤の穴に指を入れて、しばらく回しはじめる。
智香子にとってもすでにお馴染みとなった動作であったが、今回は、最初に勢いをつけるだけで終わりにせず、ずっと継続して円盤を回転させはじめた。
円盤はすぐに回転する勢いを増し、加速していき、智香子の指が痛くなる。
摩擦の軽減って線は、なさそうだな。
と、智香子は円盤の効果について推測する。
摩擦が極端に軽減されるのであれば、智香子の指も痛くはならないはずなのだった。
指が痛くて、熱い。
その両方の苦痛をギリギリまで堪えた上で、智香子は円盤を土手の方向に放す。
勢いよく回転していた円盤を、土手の方向に行くように角度をつけて、指を抜いた形だ。
円盤は、回転する勢いを少しも減じず、まっすぐに土手の方に向かい、そのまま激突した。
当たった、というより、激突した、というのが正しい。
小さな円盤は大きな濁音を立てて命中したコンクリートを砕き、三分の一ほどのめり込んでいる。
やはりなあ。
と、智香子は自分の推測が正しかったことを確信する。
この円盤は、遠心力を利用した投擲武器、いわゆるチャクラムというやつだ。
智香子もゲームかマンガの中で見たことがある程度の、比較的マイナーな武器だったが、一応、大昔は実用品だったらしい。
ただ、慣性を保存する性質があるらしい円盤は、継続して回転する力を加えていけば、それだけ大きな遠心力を蓄えていくわけで。
ごく普通の女子中学生でしかない智香子が使っても、コンクリートにのめり込むほどの威力を発揮する。
もしこれが、同じ智香子が使うのでも、迷宮の内部で探索者としての力をフルに発揮して円盤を回してから、目標に向かって放てば。
おそらくは、十分な破壊力を発揮するはずだ。
探索者の力だけではなく、迷宮に入る際には探索者用の装備も着用をしているわけであり、探索者用の、強靱な各種体勢を持つ素材で構成されたグローブでこの円盤を回すならば、どこまでの遠心力を蓄えられることか。
それも、これから検証していく必要があるようだ。
ただ、実際に使う際には、その度に時間をかけて準備をする必要があるので、そこまで使い勝手がいい武器というわけでもない。
癖が強いことは確かだったが、遠距離攻撃用のスキルなどを使えない人にとっては、貴重な遠距離用の武器にはなり得る。
短所も多いが、うまく条件を整えてやれば、それなりに使える武器、ということになるか。
実際の使用法については、これから先輩方と相談して工夫をする必要があるが、この円盤の正体がどうやら判明したようなので、智香子としてはそれなりに満足だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます