第189話 円盤の回収

「はい、ご苦労さん」

 勝呂先生はそういって書類を受け取り、机の引き出しから出した封筒にその書類を収めただけだった。

 迷宮の窓口も、提出者である佐治さんの探索者登録カードを確認した上で簡単な事情聴取をして、

「その円盤、今持ってます?」

 と聞いて来ただけであり、反応としては淡々とした、事務的な物だった。

 佐治さんは、例の円盤もひとつ、持参していたので、その場で公社の人に手渡した。

 公社の人はその円盤を受け取ってからビニール袋に入れてダブルクリップで書類に固定し、引き出しに入れる。

「それでは、これちらが受領書になります。

 不審な点があれば、いつでもお問い合わせください」

 といって、やはり紙片を佐治さんに渡して、それで終わりだった。

 冷淡な、というか、事務的な反応だった。

 公社の人にしても、同じような案件は頻繁に処理しているはずであり、マニュアル通りの対応をしているだけなのだろうが。

 しかし、なんとなく、もっと驚いてくれるもの期待していた智香子は、肩すかしをくらったような気分になる。


「じゃあ、例の円盤、スクラップ置き場のコンテナから拾ってきておいて」

 委員会が使用している教室に戻ると、即座に橋本先輩がそういった。

「あの円盤、将来値打ち物になる可能性が出て来たわけでさ。

 だとしたら、重さいくらで引き取って貰うよりも、これからは別に保管をしておいた方がいいよね」

 いや、それはそうなんでしょうけど。

 と、智香子は思う。

 だからといって、そのスクラップ置き場からあの円盤だけを拾い集めるような作業を、智香子たちがしなくてはならないのだろうか?

「あとで人は増やすけどさ。

 急なことでもあるし、今日はこの四人だけでやっておいてよ」

 橋本先輩は、そういった。

「なにより、円盤性質発見の当事者になるわけだし」

 そういわれてしまうと、断ることもできなかった。


「うわ」

 コンテナの中に入るとすぐに、黎がそんな声をあげる。

「思ったよりも足場が悪い!

 みんな、気をつけて!」

「転んだとしても、探索者用の保護具を着用していれば問題ないでしょう」

 佐治さんが、そんな風にいう。

「そこいらの作業着なんかよりも、よっぽど頑丈だからな、これ」

「念のため、ヘルメットも持ってきておいてよかった」

 香椎さんがいった。

「だけど、本当に要らない物を放り込んでいるだけなのね、ここ」

 一応、このスクラップを溜めておく用のコンテナも、素材となる金属別に分けている。

 一番多いのが鉄で、その次が銅だと、智香子たちは聞いていた。

 それ以外の金属は、なかなかコンテナがいっぱいにならず、引き取ってくれる業者を呼ぶ頻度もかなり少ないということだった。

 この鉛のコンテナなどは、一年に一度くらい、業者を呼べばいい方だと、そう聞いている。

 コンテナの中身は、半分以上が例の円盤だった。

「回収って、いっても」

 黎が、戸惑った口調でいいかける。

「こんだけいっぱいあると、やりようも……」

「円盤だけ、片っ端から〈フクロ〉の中に放り込んでおこう」

 智香子は、そういった。

「〈フクロ〉のスキルを持っていない人は、わたしのところまで持ってきて」

 コンテナの中身から、円盤だけを取り除けばいいのだ。

 そうするのが、一番手っ取り早い。

 回収した円盤をどこに置くのかは、また後で橋本先輩にでも訊ねればよかった。

 こういう時、〈フクロ〉のスキルは便利だよな、と、智香子は思う。


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