第288話 一長一短

「あと」

 柳瀬さんが疑問を口にした。

「遠距離攻撃なんすけど、スキルと物理、どっちがいいんですか?」

「一長一短、かな」

 黎は、慎重な口ぶりになる。

「どっちかが特別勝っているってわけじゃない。

 特にスキルは、その系統を伸ばせば威力や射程距離がかなり拡大するし」

「〈投擲〉スキル、使いやすいことは確かなんだけどねえ」

 佐治さんがいった。

「スキルの練度によって、威力は違ってくるけど。

 ただ、〈フクロ〉持ちでないと常用するのはキツいよね、あれ」

「なんでもいいから、投げる物を用意しておかないとね」

 香椎さんが指摘をする。

「うちで〈投擲〉を使う子が少ないの、弓道部の人がいるのと、それがあるからだし」

 事前の準備が必要だ、というのは、意外にネックになる。

 と、智香子は思う。

 特に松濤女子の場合、兼部組の割合が多かった。

 迷宮探索のために多くの時間を使ってもいい。

 そう思う部員は、案外に少なかった。

 投げる物自体は、いらないアイテムを放り込んでいるスクラップ置場へいけば無尽蔵に存在するのだが。

「〈投擲〉、使い勝手はいいですよ」

 世良月が、そう念を押す。

「スキルほど、連射は効きませんが」

「成長性ではスキル、即効性なら〈投擲〉ってところかな」

 佐治さんは、そうまとめる。

「一般論でしかないけど」

「後、〈投擲〉をメインにすると、それ以外のことを平行してやるのが難しくなるから」

 智香子は指摘をした。

「スキルは、使う時の負担が少ないし、〈投擲〉と比べると連射も効く」

 智香子自身が使えるこの手のスキルは、今の時点では〈ライトニング・バレット〉の一種類しかない。

 前述のように、この〈ライトニング・バレット〉は決定的な打撃力に欠けるスキルだったが、そうした長所もある。

「先輩の〈ライトニンング・バレット〉、スタン効果もあるから支援攻撃としては十分な性能だと思いますけど」

 世良月が意見を述べる。

「別にすべての攻撃が大きな打撃を与えなくてはいけないわけでもないですし」

「むしろ、パーティ全体で考えると、エネミーを牽制するスキルはあった方がいいよね」

 佐治さんも、そういって頷く。

「特にうちの場合、打撃力にはあまり困ってないし。

 むしろ、多数のエネミーを相手にする時、冬馬さんの支援がないと困るし」

「困るっていうか、詰みかねない」

 黎も、もっともらしい表情をして続ける。

「単純に手数の問題で。

 相手の人数の方が多い場合、その攻撃に待ったをかけられるスキルは重要だよ。

 打撃力がなかったとしても、そんなことは全然問題にならない」

 迷宮では、多数のエネミーを一度に相手にすることが多い。

 普段、部活で迷宮に入る時は、智香子たち側の人数も多かったからあまり気にしたことはなかった。

 しかし、今回、少人数での探索を実行してみると、その普段の探索がいかに有効であったのか、思い知らされてしまう。

 数には数を。

 このシンプルな対策は、驚くほど有効だった。

 今回、智香子たちは、その事実を思い知らされている。

 普段よりもずっと、今回の探索は心身に対する負担が大きかった。

 そう、実感していたのだ。

「これ、普段からソロでやっているって、どうよ?」

 佐治さんがそういって、仮眠を取っている〈スローター〉氏の方に顔を向ける

「想像していたよりも、ずっと凄いことなんじゃないか、これ」

 感心、感嘆しているというより、半ば呆れているような口調だった。

「他にはちょっといないタイプの探索者、なんでしょうね」

 香椎さんが、そういった。

「多分。

 なんでこれまでソロの探索者が出なかったのか、今回のでよく実感できたし」

 後半は、自分にいい聞かせるような口調になっている。

「ソロだと消耗がずっと激しいはずだよね、普通にパーティ組むよりも」

 黎も、そういって頷く。

「一回とか二回ならばともかく、ずっと継続してソロやっているって、信じられない」

 普通でないのは確かかな、と、智香子は思う。

 体力的にもキツかったが、それ以上に神経が持たない。

 ソロだと、すべての行動の結果が自分の責任になるわけで、気が休まる暇もないはずだった。

「あ」

 智香子は、その場で声をあげた。

「エネミー」

〈察知〉の感覚に、エネミーの存在を感知したのだ。

「世良さん、この人を……」

 起こして、といい終える前に、寝ていたはずの〈スローター〉氏が跳ね起きる。

「意外に、近い」

 起き上がったばかりの〈スローター〉氏は、その場で〈フクロ〉から剣を出しながらそういった。

「先に行って、数を減らしておく」

〈走狗の剣〉。

 移動力にプラス補正がかかる効果があるアイテムだと、智香子は〈鑑定〉スキルで読み取る。

 そのまま、智香子たちのことを気にかける様子もなく、〈スローター〉氏は走り出す。

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