第287話 武器談義
〈スローター〉氏の槍に限らず、自分で使用する装備品の選択は難しかった。
リーチや性能など、表面的なスペックだけで選択すると持て余す、あるいはかえって使いにくいという場面がままあったからである。
「適所適材」という言葉通りに、その場面その場面で最適な選択を毎回できれば最上なのだが、現実にはそうもいかなかった。
武器一つ取っても得手不得手、つまりそれまで積み重ねてきた経験から、得意なものと不得意なものがどうしてもできてしまう。
「槍なんて、これまで使ったことないからなあ」
佐治さんはそうこぼした。
「長物の武器ということなら、本当に初心者の頃、ほんの少しだけ棒を使っていたけど」
「グラスファイバーのあれね」
香椎さんが、そういって頷く。
「軽いしリーチの割には扱いやすいしで、あれはあれでいい武器ではあったんだけど」
「ただ、壊れやすいから、完全に消耗品だよね、あれ」
さらに黎がつけ加える。
「軽くて扱いやすいんだけど。
その分、与えるダメージもたかが知れているっていうか」
「ちょっと強めに叩きつけると、すぐに折れちゃうよね、あれ」
佐治さんも、そういって頷いた。
「耐久性に問題があるっていうか」
「というより、累積効果であがった筋力に耐えられなくなるんでしょうね」
黎は、そんな風に推測した。
「だから初心者のうちは、みんなあれを使うけど、すぐに使われなくなる」
「扱いやすさ、っていうことでいえば、刃物がついた刀剣類は難しいかなあ」
香椎さんはいった。
「早めに刃の立て方をおぼえられればいいけど、そうでないとすぐになまくらになっちゃうし」
「難しいよねえ、あれも」
佐治さんは、そんな風にして頷いた。
「グラスファイバーの棒と同じく、消耗品として割り切ればいいんだけど。
それでも、鈍器として使うのなら、最初から普通にメイスを使えばいいわけだし」
「ゲームとかだと剣とか刀をメインに使うのが定番だけど、現実にはそうもいかないよね」
黎は、そういって頷いた。
「結局、メイスか斧系の武器に落ち着いちゃう」
「多少乱暴に扱っても壊れないからね」
香椎さんはそういって頷いた。
「早い段階で攻撃力が高い剣系のアイテムとかゲットしちゃった人は、かなり苦労して扱いおぼえているようだし」
「実剣の扱いをまもとに押しているところ、今の日本じゃほとんどないもんなあ」
佐治さんは、そういった。
「剣道も、まったく参考にならないわけでもないんだろうけど」
「剣道経験者によると、竹刀を使うのが前提の現代剣道だと、ほとんど参考にならなそうだよ」
黎が説明した。
「剣道を経由して、居合道まで経験した人だとまた違ってくるみたいだけど」
「竹刀と実剣とでは、勝手はかなり違うだろうなあ」
佐治さんは、そういって頷いた。
「迷宮でよく出る鉄の短剣。
あれ、ほとんど斬れないけど、補充が効く分、練習用にはちょうどいいのかも知れない」
「斬れないねえ、あれ。
というか、刃の部分がほとんど機能していない」
香椎さんはそういった。
「グラインダーかなにかでいちいち研ぐのも面倒だし。
斬る、ではなく、突く。
そちらの一点に特化して使うのなら、まだしもやりようがあるのかも知れないけど」
「ああ、そうか」
それまでやり取りを黙って聞いていた柳瀬さんが、唐突にそんなことをいった。
「剣として使うとするから駄目なんで。
最初から、サイとして割り切って浸かればよかったのか」
「サイって?」
耳慣れない単語について、智香子は訊き返した。
「カンフー映画とかで観たことありませんか?
こう、両手に一本ずつ持つ、短剣みたいな武器」
柳瀬さんは身振り手振りを交えて、そう説明してくれる。
「漢字で書くと、釵。
かんざし、って字になるんですけど。
もともとは、琉球のあたり武術で使う武器です」
「ああ、あれ」
黎はそういって頷く。
「あれなら、使えるの」
「経験はありませんが、おそらくは」
柳瀬さんはそういって頷いた。
「あの手の武器は、武器というより手足の延長として使うといい感じになる。
そう、教えられています。
斬るのは駄目でも、叩いたり突いたりする使い方なら、素手よりはかなりマシになるでしょう」
「柳瀬さん、そっち系の武術、経験あるってことだしね」
佐治さんもそういって頷いた。
「なにより、壊したりなくしたりしても、まったく困らないからなあ、あれ」
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