第39話 はじめての〈杖〉
「やあ!」
〈杖〉を手にした智香子が気合いを入れると、〈杖〉の先から二十センチほどの紫電がびしししし、と一瞬走った。
これが、現段階での〈電撃の杖〉の効果、ということになる。
なんか、護身用のスタンガンとたいして変わらないような。
などと、智香子は内心で落胆する。
もっとも、この〈雷撃の杖〉の効果は使用者の能力によって違ってくるというので、今後、智香子自身が成長をすれば、もっと凄いアイテムに化けるかも知れない。
うん。
その可能性は、捨てきれない。
そう思うことにしよう。
将来性はともかく、今の時点で問題となるのは、この〈杖〉の射程の短さだった。
これまでかなり長いグラスファイバー製の棒を使ってきた智香子としては、その間合いの違いに大きな違和感を抱いている。
その長さゆえ、両手で扱うしかない棒とこの〈杖〉とを、同時に使うことはできない。
棒を使う場合は〈杖〉が使えないし、〈杖〉を使う場合は棒が使えない。
つまりは、今の段階では、〈杖〉の扱いに習熟することを目指す必要があった。
これは智香子だけの問題ではなく、一年生全員が新しく貰った武器に早く慣れる必要があった。
ということで、
「またバッタの間、かあ」
智香子は、例によって引率役の先輩に送って貰った先で、そう呟く。
智香子たち一年生にとっては、「毎度お馴染みの」であった。
迷宮に入る時は毎回、このバッタの間に案内をされるわけだが、来る度にいっしょに中に入る人数は減ってきている。
累積効果というやつで、智香子たち新入生側の能力自体が底上げされているので、人数が減ってちょうどいいのだった。
とはいえ、この時にはすでに五人であのバッタの大群を全滅させねばならなかったので、実際にやるのはかなり骨だったが。
「今回は、新しい装備品の習熟訓練も兼ねてだから」
ここまで智香子たちを連れてきた引率役、高等部三年生の松風薫先輩がそういった。
「できるだけ、新しい装備品だけを使うように心がけて」
最初のうち二十名以上でやっていた作業をその四分の一の人数でやるわけであり、それだけでもかなり大変なのだが、この先輩はさらに智香子たちの行動に縛りをかけてきた。
いやまあ、その意図するところは実によく理解できるのだが。
でも、実際にそれをやる側にしたら、かなりの抵抗を感じた。
また汗まみれになるなあ、と、智香子は思う。
ゲートをくぐって迷宮を出た後、そのままロビーにへたり込んでしばらく動けなくなる自分の姿が、智香子には容易に想像ができた。
これまでも同じような経験を何度もしているからだ。
そうした休憩時間が長引くことで、シャワールームが混雑する時間を回避できている、という側面はあるのだが。
それでも、疲れることには変わりはない。
そして智香子としては、疲れることは極力したくはないのだが。
うう。
愚痴をいってもはじまらない。
これからも迷宮に入る以上、新装備に習熟する工程は避けては通れないのだ。
そして、このバッタの間を少人数で全滅させる行為は、その習熟訓練にはうってつけの環境であることも、智香子には否定ができない。
実際にやる側としてはかなりしんどいのだが、その分、短時間で成果を得ることが可能な、効率的な方法だともいえた。
理屈では、わかるんだけどね。
などと思いながら智香子はびびびと紫電を放つ〈杖〉を振り回す。
バッタの密度は相変わらずで、見渡す限りびっしりと飛び交っている。
それらが一斉に智香子たち新入生に体当たりをかけてくるわけだが、この絶え間ない衝撃にももう慣れた。
智香子たち新入生はぶつかってくるバッタには構わず、武器の近くのバッタから片付けていく。
ああ、やっぱ、間合いが短いとやりにくいな。
と、智香子は思う。
あの棒ならば、適当に振り回しても何匹かたたき落とせるのだが、この〈杖〉だと遙かに効率が悪くなってしまう。
リーチ、重要。
その代わり、この〈杖〉にはあの棒にはない電撃効果があるのだが、これも射程範囲は短いため、少なくとも今の時点ではあまりメリットが感じられない。
この電撃に当たったバッタは、確かに感電して地面に落ちるのだが、しばらく放置しているとまた元気に飛翔する。
あくまで一時的に感電させるだけであり、ただそれだけで死ぬわけではない。
そのため、落ちたバッタを踏み潰す工程が余計に必要となる。
〈杖〉そのもので直接殴ればかなり高い確率でバッタも死ぬのだが、〈杖〉自体が使い慣れたあの棒よりもかなり短いので、どうにももどかしく感じてしまう。
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