第138話 扶桑さんのお仕事
智香子が〈鑑定〉のスキルを使用しても勝呂先生のスキル構成その他の情報は読み取ることができなかった。
〈鑑定〉も、他のスキルと同様に決して万能などではなく、「スキルの使用者よりも実力が上の存在についてはまったく情報を読み取れない」という制約が存在する。
今の智香子では先輩方の情報もほとんど読み取れないのだから、勝呂先生ほどのキャリアを持つ人の情報が読み取れないことにも素直に納得がいく。
智香子たち一年生はまだ探索者として活動を開始してから日が浅く、まだまひよっこレベルに過ぎないという自覚もあったので、そのことについて別に残念に思うこともなかったが。
年期からして違うのだから、それくらいの格差はあって当然だと智香子は考える。
そして、それは現在〈バッタの間〉で洗練のかけらもない動きで右往左往している新人探索者にも当てはまるわけで。
今でこそあんな様子だけど、数ヶ月もすれば、少なくとも今の智香子たちレベルには仕上がるんだろうな。
とか、智香子は思っている間にも勝呂先生は例の「目では追えない」早さの攻撃スキルを使い続けて、数十メートル先のエネミーを倒し続けている。
もちろん、智香子たちがそのエネミーの存在に気づく前に、だ。
いつまでも勝呂先生の行動を目で追っているわけにもいかないので、智香子は勝呂先生から視線を外し、〈バッタの間〉の外にある通路、その先を見る。
そうしている間にも、勝呂先生は智香子がその存在に気づくよりも早くどこからか現れたエネミーを倒し続ける。
〈バッタの間〉に挑んでいる初心者さんたちはそれなりに高級な保護服や防具を身につけていて、つまりはほとんどの人がぴっちりとした体のラインがもろに出る服装になっていた。
中高年の人も少なくなかったから、こうした全身のプロポーションがもろに出る服装というのは場合によっては残酷だな、とか智香子は思う。
智香子たちの年頃だとまだ贅肉というほど余分な脂肪はついていないのだが、ある程度の年齢になると、特に女性はどうしてもいろいろなところが丸くなりがちであり、そういうのが露わになると少し可哀想な気もしてくるのだった。
あるいは、迷宮に頻繁に出入りをするようになれば、自然と運動不足が解消されてそうした贅肉も減っていくのだろうか。
ともかく、今〈バッタの間〉に挑んでいる人たちが、普段、あまり体を動かす習慣がないさそうだということは、外見だけではなく、動きのぎこちなさからも容易に想像ができた。
こうした人たちを、探索者としてそれないりの働きができるところまで仕上げるのか。
と、智香子は扶桑さんの仕事に関心をした。
これはこれで、かなり大変な仕事なのではないか。
なにしろ扶桑さんの会社を訪ねてくる人は、どこまで探索者としての仕事に熱意を持っているのか、事前にはまるでわからないのだ。
そうした人たちを一気に引き受け、「それなり」の状態まで持っていくということは、なかなかできるものではない。
モチベーションなども人によって違ってくるのだろうが、それ以外の適性などについても個人差が大きいわけで。
状況によってはかなり繊細な判断力を要求される探索者としての仕事を、なにも知らないような素人も含めて自分で仕事ができるところまで教えるという仕事は、かなり困難で根気がいるように思えた。
少なくとも、智香子はそう想像する。
扶桑さんの会社、なにげに凄いことをやっているんじゃないか、と。
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