第62話 一年生のパーティ

 同じクラスの、香椎さんだった。

 香椎さんについて智香子は、同じクラスであることと顔と名前、それに探索部に所属していることくらいしか知らない。

 それと、探索部一年の中でも、かなりのガチ勢だということくらいか。

 つまり、それほど親しい間柄ではなかった。

「冬馬さんと、ええと、そちらの……三嗣さん、だったよね?

 二人とも探索部でしょ?」

 香椎さんは、そう続けた。

「よかったら今度、パーティを組んでみない?」

「ってことは、固定ではなくて仮に、だよね?」

 智香子が口を開く前に、黎が確認をする。

「実際に試してみないことには、なんともいえないでしょう」

 香椎さんは目を見開いて、そういう。

「本番では、先輩方といっしょにパーティを組むわけですし」

 どうする?

 とでもいいたげな表情で、黎が智香子の方を見た。

 智香子は、無言のまま頷く。

「それじゃあ一度、組んでみようか」

 黎はいった。

「他の子にも、もう声をかけているの?」

「何人か、心当たりには」

 香椎さんは即答する。

 ガチ勢の子たちかな、と、智香子は思う。

 この時点で智香子は、ガチ勢の子たちにあまりいい印象がない。

 だが、どこか楽天的なところがある智香子は、

「一回や二回くらいなら」

 まあ、いいかあ。

 などと思ってしまう。


 その週末、智香子たち一年生は迷宮ゲート前に集合していた。

 香椎さんが連れてきたメンバーを一人一人紹介されたのだが、人数が多すぎて智香子は顔と名前をおぼえきれない。

 結局、智香子や黎が積極的動かないこともあって、香椎さんのガチ勢のグループに二人が入るような形になった。

 香椎さんとしては、それぞれに有用なスキルを早い時期から生やしていた智香子たちに、どうも以前から目をつけていたらしい。

 香椎さんから紹介された子たちは、ほぼ例外なく智香子たちを値踏みするような目つきで見ていた。

 なんか、やりにくそうな。

 迷宮に入る前から、智香子はそう思う。

 そうしたガチ勢の子たちは、これまた例外なく、保護服の上に物々しいプロテクターをつけている。

 あれ、暑くないんだろうか、と、智香子は不思議に思った。

 これから智香子たちが潜る予定の浅い階層では、そもそもそんなプロテクターが必要となるようなエネミーもほとんど出没することがない。

 彼女たちはどうも、用心のためというよりも「自分は探索者である」と、そう自認をするためにそうした装備を身につけているように、智香子には感じられた。

 そうした子たちも智香子や黎と同学年の中学一年生なわけで、年齢相応の体格しかしていないところにいかにも不似合いなプロテクターを身につけて着ぶくれしている様子は、ミスマッチすぎてどこか滑稽にも感じる。

「全員、揃ったかな?」

 引率役の青島先輩が確認をすると、香椎さんが元気な声で、

「揃ってます!」

 と答えた。

 その日、智香子たちのパーティを担当する引率役は、青島凪という高等部三年生だった。

 智香子も黎も、この青島先輩に引率されたパーティに参加した経験があり、顔と名前は知っている。

「それじゃあ、行きますか」

 青島先輩は軽い口調でそういった。

「このパーティでは初日だから、今日は第一階層をうろつくだけね」

 たかだか第一階層とはいっても、実際に隅から隅まで歩き回ればそれこそ一日仕事になってしまう。

 実際には、制限時間を区切ってその中での探索になるのだろうが。

 いずれにせよ一年生の自主性に任せたパーティで迷宮の中に入るのは、智香子たちにしてみればこれがはじめての経験になる。

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