第61話 座組

 中間試験も終わり、六月の終わり頃になると、智香子ら松濤女子の一年生たちは、一年生だけでパーティを組むことになった。

 厳密にいえば、十八歳以上の探索者を一名以上パーティに含めなくてはいけないという規定があるので、純粋に一年生だけで構成されたパーティではないのだが、この引率役の人は見守るだけでなにも指示をしない、という。


「つまりは、パーティの行動指針自体を自分たちで判断してやってみろ、ってことだね」

 今回の狙いについて、黎はそうまとめた。

「いつまでも先輩方のうしろを歩いているだけでは駄目、ってことでしょ」

 例によって昼休みに、昼食を食べながらの会話である。

「それはいいんだけど」

 智香子は、不満そうな口ぶりでそんなことをいう。

「パーティを組むところから自分たちだけで、なんて」

 限りなく、面倒くさい。

 人数から構成人員まで、自分たちで考えてパーティを組むところからやってみろ、というだ。

 無論、適当に顔見知りに声をかけ、人数だけを揃えて迷宮に入るのも許されているわけだが、でも智香子としては、

「それはなにか、違うのではないか」

 と、思ってしまうのだった。

「違うって、なにが?」

 黎は、そういって智香子に先を促す。

「んーとねえ」

 智香子は、自分が抱いている漠然とした違和感について考えながら、ゆっくりと口にする。

「座組の段階からパーティを組めっていうのは、つまりは、どういうパーティを作りたいのか、自分たちなりの考えを示せってことだと思うんだよね。

 でも、今の一年生だけでやると、スキルとか熟練度とかでいえば到底、理想のパーティにはならないわけだから……」

「どこで妥協をしたのか、先輩方にチェックされると、と」

「チェックっていうのかな?

 わたしら一年生もこれから本格的に迷宮に入るようになるわけで、その前に一年生がどういう人間なのか、先輩方から見れば確認しておきたいんじゃないかな?

 パーティの座組だけではなく、迷宮内での行動や選択なんかも含めて、さ」

 松濤女子の中でこそ「部活」として扱われている迷宮潜行であるが、本来であればそんなに軽々しい物ではない。

 パーティを組むといえば、命を預けるに足る人物であるかどうかを問われることになるわけで。

 この程度の判定をされるのは、むしろ当然なのではないか。

 と、智香子は思う。

「そういうことか」

 黎は、智香子の言葉をあっさりと認めた。

「あるかも知れないね、そういう思惑。

 仮になかったとして、人選に手を抜くことはないけど」

 先輩方の判定や評定がないにしても、パーティの人選は慎重に行いたい。

 最低限、不快な思いをしたり、足を引っ張られたりすることは避けたかった。

「冬馬さん、ちょっといいかな?」

 その時、誰かが智香子に声をかけてきた。

「今度の週末、いっしょに迷宮に入らない?」


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