第63話 スキルの活用法
第一階層はまさにエネミーの入れ食い状態だった。
中に入って少し進んだだけで、ネズミ型とかコウモリ型のエネミーがどこからともなくわらわらと寄ってくる。
幸い、人数がいたのとこれまでのレベリングのお陰で一年生たちもそれなりに落ち着いた対応ができるようになっていた。
大事にはならず、とりわけて騒ぐ生徒も出ずに、全員で淡々と寄ってくるエネミーたちを始末していく。
そうしたエネミーたちはさして素早いわけでもなく、運動神経に自信がない智香子でさえ軽く棒を振るだけであっけなく倒すことができた。
ただ、一度に出没する数が多かったので、すべてを倒しきるまで、多少の時間は必要としたが。
「冬馬さん、動きいいね」
一度、エネミーを倒しきってアイテム拾いをしている時に、香椎さんから声をかけられた。
「動きに無駄がないっていうか」
「そう?」
そういう自覚も特に持っていなかった智香子は、首を傾げる。
「動きにキレがあるっていったら、どちらかというと黎のが凄いと思うけど」
「三嗣さんのは、なんか別格だけど」
香椎さんは苦笑いを浮かべながらいった。
「冬馬さん、カーボンの棒とその杖をとっかえひっかえしながら、しかも時々背中に目がついているんじゃないかって動きまでするし」
「ああ」
智香子はそういって頷いた。
「スキルが、〈フクロ〉とか〈察知〉があるから、そう見えるのか」
〈フクロ〉は、物品をどこともわからない空間に収納するスキル。
〈察知〉は、エネミーの所在地を関知するスキルになる。
この二つに限らず、智香子は習得したスキルはできるだけ使いこなすように心がけていた。
戦闘用のスキルを生やしていないという引け目もあったが、それ以上に、
「せっかく持ったスキルなんだから、有効に活用しないともったいない」
という意識が強く働いたため、智香子は自分が生やしたスキルすべての有効活用法を常に考え、実践していたのだった。
使い慣れてくると、〈フクロ〉は瞬時に手にしている物を取り替え、〈察知〉は視覚に頼ることなくエネミーを迎撃する程度のことができるようになってくる。
前者の〈フクロ〉に関しては熟練者は一瞬にしてその場で着替えるなど、それなりに凝った活用をしているようだったが、後者の〈察知〉については、改めて「使い方」を考察し、実践している智香子のような探索者はどうもあまりいないようだった。
智香子が〈察知〉のスキルについてこうした使い方をしているのは、まだ智香子の〈察知〉は育ちきっていおらず、効果が及ぶ範囲がごく限られていたため、仕方がなく「自分のすぐ背後」にいるエネミーを仕留めるためなどに使用している面もある。
つまり、一種の苦肉の策なのだが、そちらの方に振り返ることもなく、「長いカーボーン製の棒を振り回して背後のエネミーを的確に叩き落とす」という智香子の動きは、事情を知らない香椎さんのような人々からすると、熟練の技に見えるらしい。
「エネミーの所在地を特定する」という、〈察知〉のスキルの本来の性質を考えると、少し練習すれば誰でも同じことができるようになるはずなのだが、この香椎さんに限らずスキルの性能やその可能性について、深く考察することもなく「漠然と使っているだけ」の人というのは、意外に多いのではないか、と、智香子は思う。
スキルの使い方を勝手に限定して、潜在的な能力を自分で狭めているパターンも意外に多いのではないか。
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