第308話 接敵
〈察知〉スキルの効果により、智香にはエネミーの位置を光点として感知している。
その光点が、目に見えて減っていく。
すでに半数以上の光点が消えていて、つまりは先行した〈スローター〉氏に倒されたということだった。
このままでは、智香子たちが追いつくまでに〈スローター〉氏だけでエネミーを全滅してしまうのではないか。
ちらりとそんなことも思ったが、すぐにそれが杞憂であったと思い知らされる。
光点が二十以下になった時点から、ほとんど消えることがなくなってしまった。
つまり、あの〈スローター〉氏でさえ、攻めあぐねる相手ばかりが残った、ということなのだろう。
これまでにあっさりと倒されたエネミーたちは、その程度の実力しか持ってないなかったことになる。
ああ、これは。
智香子の脳裏に、今度は別の不安要素がよぎった。
自分たちで、対処できるエネミーなのかかどうか。
あの〈スローター〉氏でさえ、難儀しているエネミーに、今の智香子たちが対抗できるのかどうか、かなり微妙に思えた。
いや、無理でも、どうにかしてやるしかないんだけど。
不幸なことに、今の智香子たちは、エネミーの実力を選り好みできるような贅沢な立場ではない。
「〈スローター〉氏が苦戦しているエネミーが二十体近く残っている」
諸々の要素について少し考えてから、智香子は仲間たちに声を出してそう告げた。
「わたしたちでどうにかできる相手かわからないけど、やるだけやるしかない。
一対一になることはできるだけさけて、全員で一体ずつ狙い撃ちにしていこう」
個人の実力で適わない相手なら、数の暴力でどうにかするしかない。
地道にエネミーの数を減らしていけば、いずれは活路が開けるはずだった。
というより、今の智香子にはこれ以上に有効な戦略を思いつけなかった。
「強敵、ってわけな」
黎が、呟く。
「迷宮から出るためには、やるしかないってことでしょ。
全員の安全を第一に、無理をしない程度に粘ろう」
楽観はしない。
しかし、やれるだけのことはやる。
そういいたいらしい。
「こちらが被害を受けるのをできるだけ避けて、小刻みに削っていこうってわけね」
佐治さんも、頷いた。
「いまのわたしらでは、それくらいしかやりようがないもんね」
「全員無事に迷宮から出ないと、意味ないから」
香椎さんも、そういった。
「はやく終わらせてシャワーを浴びて、その後しばらく寝たいし」
一年生の二人は、特になにもいわなかった。
おそらく、つけ加えるべき意見を持っていなかったのだろう。
智香子たちが現場に到着した時、十四体ほどのエネミーが残っていた。
しかし、エネミーたちに囲まれた〈スローター〉氏の姿を智香子たちが視界に入れた途端、二体のエネミーがほぼ同時に、仲間のエネミーに斬殺される。
一体は一刀のもとに首を切断され、もう一体は剣で胸を貫かれていた。
どちらも致命傷であり、即死したことは間違いない。
「え?」
佐治さんが足を止めて、小声で呟く。
「累積効果だよ!」
黎が語気を強めた。
「エネミー同士で殺し合って、勝った方が強くなるっていってたじゃないか!」
「いや、でも」
佐治さんは、戸惑った口調で返す。
「戦闘中に、そんなこと」
「現にやっているんだから!」
香椎さんはそう叫んで、盾と武器を構え直す。
「来るよ!」
二体の、剣使いのエネミーは俊敏だった。
香椎さんが叫んだ次の瞬間には、すぐ間近に迫っている。
盾で剣劇を受けた香椎さんが、わずかに退いた。
「力も強い!」
香椎さんが叫ぶ。
「これまでのとは、まるで違うから!」
油断しないで、ということだろうな。
そう思いつつ、智香子は〈ライトニング・ショット〉を連射する。
殺傷能力はないが、速射が可能でスタン効果があるのが、このスキルの特徴だった。
命中さえすれば、多少格上のエネミーであっても対処可能になるはずだったが。
しかし、エネミーたちは〈ライトニング・ショット〉の射線を予測して、器用に避ける。
直立ネコ型は、素早いからなあ。
と、智香子は思った。
種族的な特性に、累積効果による補正が加わって、どうにも手が着けられない存在と化している。
世良月も足を止めて〈投擲〉スキルによる攻撃を行っていたが、こちらもまるで命中しなかった。
そもそも〈投擲〉スキルは予備動作があり、〈ライトニング・ショット〉ほどに連射が効くわけではない。
二体の剣使いのエネミーたちは、智香子と世良月の攻撃をかいくぐりながら、前衛四人に対して攻撃を加え続ける。
前衛の四人は、これまでの経験も活かしてどうにかそうした攻撃を盾や剣などで受け、あるいは弾いて、対処した。
どうにか直撃を受け、深刻なダメージを受けることだけは避けていたが、エネミー二体の動きを目で追えていない。
エネミーたちは智香子たちを翻弄するように動き、攻撃を続けた。
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