第27話 授業風景
智香子たち探索部の新入部員たちがどれほどの苦痛を感じていようとも、授業は平常通りに行われる。
当たり前のことだ。
教師たちにしてみれば、一クラブの内情を考慮しなければならないような理由もない。
大きな大会に出るとかで授業を欠席するとかならまだしも、たかだか筋肉痛に考慮してくれるほど、松濤女子の教師たちもサービス精神にあふれてはいなかった。
一限目の多田先生はへたっている智香子ら探索部の生徒たちを一瞥して、
「そういう時期だよな、うん」
などといって一度大きく頷き、その後はいつも通りに出席と取っていつも通りに数一の授業を開始する。
他の先生方もほぼ同じような反応で、探索部所属の生徒たちがどんな状態であろうが、特別扱いをすることはなかった。
この松濤女子では、一部の一年生がこんな風になるも年中行事なのかも知れない。
運が悪いことに、その日の四時限目には体育の授業があった。
この体調で。
智香子としては不本意もいいところであったが、そもそも万全の体調であっても智香子は体育の授業があまり好きではない。
さらに最悪なことに、その日の体育は「持久走」であるという。
授業時間目一杯、校庭内のコースを周回し続けるという、地獄のような時間である。
生徒の体力作りが目的であるというが、体を動かすことが好きではない智香子のような人間にはただひたすら苦痛なだけだった。
ましてや、この筋肉痛。
保健委員の人から貰った湿布薬のお陰でかなり和らいでいるとはいえ、筋肉痛は相変わらずであった。
安静にしていれば特に問題はないのだが、体を動かせばその動かした部位に痛みが走る。
ましてや、持久走など。
どんな拷問だ、と、智香子は思った。
この調子だと、足が地面に着くたびに、全身に激痛が走るのに違いない。
いやだといっても筋肉痛では体育の授業を休む口実にはならず、しぶしぶ智香子はジャージに着替えて他の生徒たちいっしょに校庭に出る。
よく晴れた日で外の陽気はすでに初夏のものといってもよく、気温もかなり高かった。
こんな日に、外で走り回るのか。
智香子は、なおさら憂鬱になる。
この気温では痛いだけではなく、少し動けばどっと汗をかくはずだった。
いやだいやだと思いながらも、いざ授業がはじまれば走るしかない。
下手に手を抜いてゆっくりと走ると、体育教師の月本先生の怒号が飛ぶ。
いや今時、パワハラめいたあの態度はないだろう。
そう思うものの、月本先生の評判は、実はいい。
指導も熱心で生徒の差別をせず、なによりも真面目だった。
真面目な性格であるがゆえに、不真面目な態度で授業に臨む生徒が許せないらしい。
とにかく、その月本先生の授業は手を抜くことが許されなかった。
仕方がないので、筋肉痛の苦痛をおして、真面目に走るしかない。
お。お。お。
などと心の中で悲鳴をあげながら、智香子はそれでも真剣に校庭を走る。
ふと確認のすると、他の探索部の生徒たちも明らかに苦痛をこらえる表情をして黙然と走っていた。
やっぱみんな、痛いんだ。
と、智香子は安心をする。
そんな時、ふと体が軽くなった、気がした。
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