第28話 影響圏
あれ?
と、智香子は疑問に思う。
なんだ、これは。
手足が体が、とても軽い。
錯覚ではなく、その証拠にそこに入ってから、周囲の風景がびゅんと後ろに流れるようになった。
ある時点から、いきなり智香子の速度が増しているのだ。
なんで?
と、智香子は思う。
決して、智香子が意図的にスパートをかけているわけではない。
そもそも授業中にそんなことをする意味がないし、智香子としては月本先生に怒られない程度に手を抜きたいとさえ、思っているくらいだ。
つまり、それまでと同じように走っていたつもりだが、歩幅が、足腰の、そして全身のバネの効き方が、まるで違う。
あ、これは。
しばらくして、智香子はある可能性に思いあたった。
迷宮の、せいだ。
校庭のこちら側は、迷宮に近い。
迷宮の影響を受けるようになったので、智香子ら、探索部の部員たちは、その影響圏内に入っている時限定で、昨日、迷宮内であれだけ動けたように、この地表においても普段よりもずっと割り増しの身体能力を発揮することができる。
と、いうことらしかった。
その証拠に、智香子だけではなく、他の探索部員たちも、校庭のこちら側に来た時だけ元気になって、同じように周回している生徒たちを楽々と追い抜いていた。
場所限定、かあ。
と、智香子は思う。
そういえば迷宮内で獲得をした〈フクロ〉や〈鑑定〉などのスキルも、迷宮の近くでしか使用することができなかった。
松濤女子の敷地は、都内の私立校としてはかなり広い方だった。
地価が高騰する以前、それこそ戦前からある学校であり、なおかつこれまで財務的な状況として、敷地を切り売りするほどには困窮したことがないからだったが、そうした事情を智香子たち生徒のほとんどは知らなかった。
ただ漠然と、
「渋谷区のこんな場所にあるにしては、随分と広い学校だな」
と、そんな風に認識をしているだけだ。
その広い校庭を走りながら、智香子は、
「そうか」
と、一人納得をしている。
「迷宮内で獲得した能力は、迷宮の近くでしか使えないのか」
と。
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