第248話 義足の子

 その時の一年生には、世良月以外にも少し変わったことをしている子が何名か存在した。

 一人は、なんと武器を持たずに自分の拳や蹴りでエネミーをたたき落としている子で、そうした挙動がいちいち様になっている。

 格闘技かなんかやっている子かな?

 などと智香子は思う。

 とはいえ、そちら方面の知識をほとんど持たない智香子は、手と足を使う格闘技というと空手くらいしか思いつかないのだが。

 流麗でほとんど遅滞が見られない動きだったが、ときおり、なんというか左足の動きがぎこちなく感じる瞬間があって、その点が気になってしばらく注視してみると、その子の左足の形状がかなり不自然であることにようやく気づく。

 普通にしていればブーツで隠れているのだが、激しく動かすとその部分の裾が不自然にたわんで、その中身であるすねの部分がかなり奇妙な形状であることがわかる。

 あ。

 と、そこまで見てはじめて、智香子はその子の左足が義足であることを悟った。

 これまで、そういう人と接した経験がなかった智香子は、なにか見てはいけないものを目にしたような罪悪感に捕らわれてふと目線を逸らす。

 冷静に考えれば、松濤女子にそうした境遇の子が在籍していたとしても、不思議なことはなにもないのだが。

 その子の動きを見れば明瞭なように、たとえ義肢を使っているといっても、運動能力でいえば智香子自身よりもずっと上をいっている。

 今の義肢は競技用に開発されている物もあって、下手な健常者よりもずっと活発に動くことがかのな人も多いと、智香子は以前、耳に挟んだことがあった。

 ただこれまで、そうしたハンディキャップを負った人と直に接する機会がなかった智香子は、唐突にその実例を目前に突きつけられ、少し動揺している。

 保護具をはじめとする探索者用の装備は、各種の耐性を強化されたハイテク製品だった。

 その分、値段も相応にするのだが、その代わりに斬られたり突かれたり、といった衝撃にかなり強い。

 たとえ初心者用の保護具であっても、第一階層に出没するエネミーの攻撃程度では、小さな傷さえつかないだろう。

 完全にオーバースペックな状態であり、その一年生はそれをいいことに手足の攻撃だけで絶え間なくエネミーを叩き飛ばし続ける。

 他の武器を使用している子たちとは明らかに違い、その子の周囲だけ明らかに動きの回転率が倍増されているように見えた。

 動画を倍速で再生しているような動きであり、智香子などは、

「なんか、他の子たちとは全然違う」

 などと思ってしまう。

 この子ならば、一年生はおろか、今の智香子よりも効率よくエネミーを倒せているのではないか。

 しかも、武器を使わずに。

 武道経験者って、こういうことができるものなのか。

 などと、智香子は素直に感心をする。

 その手の熟練度について具体的な知識を持っていなかったので、今目の前で起きている光景をそのまま素直に認識するしかない。

 他の一年生たちも、その子の動きが気になるようで、ちらちらそちらに顔を向けて様子を伺っているようだが、今はそれ以上に目の前のエネミーに対処するしかないので、ずっと注視するということはできないようだった。

 なんだか、いろいろな子がいるものだな。

 智香子は、そんな感慨を持つ。

 能力的な個人差が存在するのは当然なのだが、この年頃であっても相応の過去を、経験を積みあげて来ているわけで。

 世良月も、この義足の子も、その経験をうまく利用して、この迷宮という環境に適応しようとしている。

 自分には果たして、この子たちほどの蓄積があるのだろうか?

 とも、思った。


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