第141話 智香子たちの存在意義

「それって、なんのことですか?」

「わかっているでしょう」

 智香子が訊き返すと、勝呂先生はもう少し詳しく説明をした。

「今日、扶桑さんがお前たちをわざわざ呼んだ意味」

「それですか」

 なんで他の三人にではなく、自分に訊くのかな。

 とか思いながら、智香子は答える。

「多分、わたしたちが探索者としてそれなりにやれていることを見せて、新人さんたちを勇気づけようとしているのかと」

 先ほど、智香子自身で考えていた内容でもあったので、その返答はすんなりと口から出た。

「やはり予測していたか」

 勝呂先生は智香子の顔を見ながら、そういった。

「冬馬は、妙なところに勘が働くな。

 周囲の状況をよく観察し、よく考えているというか」

「はぁ」

 そういう自覚があまりない智香子は、曖昧な生返事をする。

「いい意味で落ち着いているというのか」

 勝呂先生は妙にしみじみとした口調でいった。

「その年では、なかなかそこまで冷静に周りを見ることができるやつは少ない」

「そう、なんですか?」

 智香子は、首を捻った。

 そういわれても、本人としてはあまりピンと来ない。

「そうだよ」

 勝呂先生は、なぜかため息をついた。

「中一でそこまで他人の事情を想像できるやつは、そんなにいない。

 というか、お前たちの年頃だと他人、特に年の離れた大人のことなどろくに想像しようとしない」

 これまでどんな教育を受けて来たんだか、と、勝呂先生は、天を仰ぎながら小さな声で付け加えた。

「とにかく、だ。

 冬馬のその観察力と考察、想像力などをひっくるめて、それらはなかなか珍しい資質だ」

 それから勝呂先生は身を乗り出して、智香子にいった。

「くれぐれも、その資質を大事にするように。

 無論、探索者としてもそれはお前の助けになる、はずだ」

「はぁ」

 自分が特別なことをしているという自覚さえない智香子は、やはり曖昧に頷く。

「それで、話題を元に戻すが」

 勝呂先生は姿勢を正してそう続けた。

「多分、冬馬の意見で正解だ。

 周囲の護衛や警戒も必要なんだが、少なくとも今日の分に関しては、あの新人さんたちのメンタルをフォローすることのがメインだと思う。

 より具体的にいうと、これまであまり体を動かす機会がなかった多いあの人たちが、自力で儲けることができる段階に進む前に挫けることを防止するため、お前たち中坊でも探索者ができるってことを見せておきたかったんだと思う」

 そういわれても、智香子は特に驚くことはなかった。

 自分自身で想像をしていた内容とあまり変わらなかったから、である。

 しかし、他の三人はそうでもなかったようで、なんかありありと驚愕の表情を見せていた。

「そんなに効果あるんでしょうか、それ」

 智香子はそういって、首を傾げた。

「あるんじゃないかな、それなりに」

 勝呂先生は即答する。

「お前たちは、自分で自覚しているよりもずっと幼く見えるから。

 その、大人の目から見ればってことだけど」

 そういわれれば、そんなもんなのかもな。

 と、智香子も思う。

 大人から見た中学一年生。

「小さい」というよりは、「幼い」ように見えるものかも知れない。

 そのまだ「幼い」子どもが、ちゃんと探索者としてやっていけているのだったら。

 これから探索者になろうとしている人たちにとっては、かなり勇気ずけられるのではないだろうか。

「それで、だ」

 勝呂先生は、さらに続ける。

「その線でいくと、だ。

 休憩終わってからまた迷宮に入ると、多分、今度はお前たちの出番になるんじゃないかな。

 つまり、ちょっとスキルとか見せてくれって、そんなリクエストが来ると思うんだ」

 勝呂先生がそこまで話し終えた時、まるで見計らったかのように、注文した料理が智香子たちの前に並びはじめる。


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