第54話 黎の考え

「迷宮はなにかって考えると、人智を超えた存在がデザインした空間であると考えるのが、一番妥当だと思うんだよね。

 今の時点では」

 黎は、そう続ける。

「よくいわれていることではあるんだけど」

「うん。

 そういう説は、よく聞く」

 智香子は、頷いた。

 幼い頃は、興味本位で迷宮を取り上げたテレビ番組などをよく観ていた。

 あれは、今にしても思うとドキュメンタリーというよりはバラエティ寄りの内容だったな。

 などと、智香子は思い返す。

 それはともかく。

「誰が、なんの目的で?」

 そう、智香子は黎に訊ねてみた。

「知らないよ、そんなもん」

 黎は、あっさりと答える。

「あんなものを平然と作る存在に、人間の感性がそのまま投影できるとも思えないし。

 彼らには彼らなりの目的があるんだろうね、くらいのことしか想像ができない」

「案外、中をモニターして娯楽として観ていたりして」

 智香子は、そんな思いつきを口にしてみた。

「単なる娯楽にしては、手が込みすぎてる気もするけどね」

 黎は、そう反応した。

「あんまり人間の尺度で考えすぎない方がいいとは思うけど。

 もしも娯楽として探索者の行状がモニターされているのだとしたら、それこそ悪趣味だと思うね」

 もっともだ、と、智香子も黎の言葉に頷く。

 なんといってもあの迷宮の中では無数の、かなりの人数が死傷している。

 とにかく、黎としては、

「あの迷宮を設計し稼働させているような存在ならば、その施工や思惑を人類がトレースすることもできないだろう」

 と、そう断じているようだった。

 映画や小説などに出てくる、悪い意味で妙に人間くさいエイリアン、というものを、黎としては一切想定していないらしい。

「仮にそういう存在が実際にいるのだと想定しても」

 黎は、そう結論する。

「それはきっと、人類には理解もできないほど、隔絶した存在なのだと思うよ」

「迷宮内に用意された試験が、一種のテストであるって説も聞いたことがあるけど」

「そうかも知れないし、そうではないかも知れない」

 智香子がそう水を向けても、黎の反応はそっけなかった。

「今の時点でいくら推測をしても、事実は確認しようがないし。

 迷宮がなぜあるのか、誰がなにを目的として作ったのかという点に関しては、とやかくいうだけ無駄だと思う」

 あくまで、ドライな反応だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る