第198話 円盤の効能
「飛距離、破壊力ともに十分」
一通りの試験を終えた後、橋本先輩はそういった。
「ただ、扱いには慣れが必要だし、運動エネルギーをチャージする間、片手が拘束されるという難点はある。
命中精度は、なれればどうにかなるのかな?
これについては、今の時点では保留、と。
これ、なんというか……」
「癖が強い」
智香子が、その続きを引き取る。
「普段使いをしたくなるような、扱いやすい武器ではないことは確かですね」
その点は、智香子も重々承知をしている。
「まあ、チカちゃんがいっていた通り、しょっぱなの弾幕用に使うのが妥当だからなあ」
橋本先輩は、そういった。
「といっても、委員会の方からこれを使うことように強要することも出来ないんで。
こういう武器と使い方がありますよ、って探索部の子たちに広報するのがせいぜいだけど」
まあ、そうなんだろうな。
と、智香子も思う。
一口に探索部といっても、兼部の人も多いし、その内実はかなりバラバラ。
その全員に、委員会が推奨するやり方を強要しても、いい結果になるとも思えない。
「ただ、あの破壊力見ちゃうとねえ」
橋本先輩は、そう続ける。
「うち、一応女子校だからさ、スキル攻撃はともかく、フィジカルであれだけの攻撃力出せる武器ってほとんどないんだよね。
だからまあ、こちらから強要するまでもなく、最初の一押しさえこちっでやれば、勝手に使い方を工夫する子も出てくると思うんだけど」
「ああ」
智香子は、声を漏らした。
「そっか」
そういうことを、智香子自身はこれまで考えてこなかった。
大人の男性だったら、自分の力でなんとかできるのだろうが、松濤女子の生徒たちでは、探索者として、フィジカルな条件面でできることに限界がある。
攻撃と物理の両面で。
特に物理的な攻撃は、どうしても一撃が軽くなる。
弓道部との兼部組が頼りにされているのは、〈梓弓〉がスキル攻撃にしては珍しい物理攻撃だから、という事情もある。
松濤女子の子たちが実際にエネミーと接触する前に、弓道部の攻撃である程度エネミーを弱らせてくれる。
この攻撃は、松濤女子の中では大きなアドバンテージになっている、といってもよかった。
智香子はそこまで深く考えてはいなかったのだが、こうして指摘をされるてみると。
「この円盤の性質を真面目に考えると、理論的には、運動エネルギーを蓄えれば蓄えるほど、威力も増す」
ということになる。
実際に使う前に準備が必要になる、という制約があるのはともかく、得られる効果自体は、松濤女子探索部全員の短所を補う物ではあるのだ。
「結構、凄い物だったんですね、これ」
思わず、といった感じで、智香子は本音を漏らしてしまう。
「なに、それ」
橋本先輩が吹き出した。
「もとはいえば、チカちゃんがいい出したことなのに」
この円盤の件について、いいだしっぺである智香子がそんなことをいったのがおかしいらしかった。
「結果論だけど」
ひとしきり笑った後、橋本先輩は表情を引き締めて、そういった。
「卒業する前に、この円盤に関われてよかったわ」
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