第14話 購買部へ

 ともかく、そんなわけで冬馬智香子は迷宮関連の事情に暗かった。

 その智香子にしてみれば、「迷宮活動管理委員会」の存在をはじめとして、松濤女子の側が迷宮という存在と共存をするために工夫し維持してきた数々の仕組みに、関心をするしかない。

 そうした仕組みはおそらく長い時間をかけて整備されてきたものだろうし、その過程で松濤女子の生徒たちは、既存の法律や迷宮関連のあれこれを学習してそれに適応する必要に迫られていたいたはず、だった。

 その結果、今の状態があるわけで。

 そうした仕組みの整備に、大人たちがどれほど関わっていたのか、智香子にはわからなかったが。

 今現在そうした仕組みを動かしているのは、明らかに松濤女子の生徒たちが主体になって行っている。

 これって、かなり凄いことなのではないか。

 現在、中学に入学したばかりの智香子は、眼鏡の上級生を見上げながら、そんな風に思う。

 その上級生の名前は、〈鑑定〉スキルで表示された情報によれば、「千景恵」というらしい。

〈鑑定〉スキルによると、名前以外にも、いくつかのスキル名が表示されている。

 この千景先輩も、迷宮に入って経験がある探索者の一員であるらしかった。

 なんだか、凄いところに来ちゃったな。

 と、改めて、智香子は思った。


「武器や防具なんかは後で委員会に取りに来てもいいけど」

 千景先輩は、そう助言してくれた。

「最低、足回りくらいは自前で買いそろえた方がいいと思う」

 バッタの間がある第七階層くらいの浅い層ならば、現実的に考えると、普段着でもほとんど問題にはならない。

 だが、丈夫で、つまり耐久性があって動くのに邪魔にならない履き物は、早めに揃えていた方がいい、ということだった。

「強い酸性やアルカリ性の体液を持つエネミーも珍しくはないし、それに防刃とか刺突に強い足回りがあると、なにかと安心ができる」

 とも、いわれた。

 そこまで警戒をする必要があると指摘されて、智香子は改めて迷宮という場所の剣呑さを認識する。

「第一、誰かが履いた靴やブーツを、自分で履きたくはないでしょ」

 最後に、千景先輩はそうもつけ加えた。

 この最後の指摘には、智香子としても素直に賛同したい。


 そんなわけで、冬馬智香子と三嗣黎は、そのまま購買部へと向かう。

 高額なドロップ・アイテムなどではなく、日常的な探索者向けの消耗品であれば、購買部で買った方が安いと、千景先輩が教えてくれたからだ。

 そうした探索者向けの物品や装備品は各迷宮に付属している売店などでも購入可能なのだが、松濤の購買部はメーカーから大量に仕入れているので、そうした売店よりも安価で揃えるられる、ということだった。

 購買部に行くと、すでに智香子たちと同学年の子が大勢たむろしていた。

 どうやら、同じような目的でここに集まっているらしい。

「はいはい。

 数は十分にありますからね」

 購買部のおばさんは、声を張り上げてそういった。

「順番に、順番に。

 まずは二十階層くらいまで問題はないはずの装備品を揃えています」

 智香子と黎は素直に列に並んで、自分たちの順番が来るのを待った。

 その間に、「購買部の特売品」リストが印字されたコピー用紙が前の方から回ってくる。

「ブーツだけなら、お小遣いでもなんとかなるかな」

 と、智香子は思った。

 智香子はその手の装備の相場を知らなかったが、確かに「安いのだろうな」、と、そんな風に思う。

 なにしろ、学校指定の上履きの値段と大差ないのだ。

 フェイスプレート付きのヘルメットは探索者の資格を受ける時の講習で受け取っていたし、他の装備は委員会の方に行けば揃えることができるらしい。

 まずは、ブーツだけでいいだろう、と、智香子は、そう判断した。

 列で待機中に確認してみると、前の方で買い物をしている生徒の中には、かなり大量かつ高価な装備品をその場で揃えている者も少なくはなかった。

「あれが、迷宮目当てで入学したガチ勢か」

 と、智香子は感心する。

 手元もコピー用紙でざっと確認して見たところ、そうしたガチ勢の買い物は総額で数十万単位になるはずだった。

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