第206話 実戦結果
「先輩、あちらの方角に、そろそろ」
「ほい来た」
智香子が合図をすると、橋本先輩はパーティの面々に合図を送る。
「全員、聞いたね。
エネミーの姿が見えたら、円盤を放つこと」
あまり小さなエネミーに対してこの円盤を使用しても、命中しにくい。
それ以前に、円盤が命中したらそれだけでエネミーを倒してしまうようでは、威力を検証することができないわけで、今回はある程度大型のエネミーである必要があった。
そのために選ばれたのはスイギュウ型のエネミーがよく出没するこの階層だった。
今回のパーティは委員会の子だけで編成されており、〈察知〉のスキル持ちはたまたま智香子だけしかいなかった。
智香子の〈察知〉スキルは、エネミーがいる位置と方向をかなり漠然と把握する程度の性能しか持たず、そのにいるエネミーの数は把握できても種類までは特定できない。
それでも、他に〈察知〉のスキルを持つ者がいない状況では、十分に役に立つスキルといえた。
不意打ちを回避できるだけでもパーティの危険性をかなり軽減できたし、なにより、事前にエネミーが現れる方角がわかっていれば、こうして先制攻撃をすることもかなり容易になる。
いや、この円盤を用いた先制攻撃自体が、パーティの内部に〈察知〉スキルの持ち主がいることを前提とした戦法といえた。
無論、そうではなくてもこの戦法を使用することは可能なのだが、〈察知〉のスキルなしでエネミーよりも先にこちらがエネミーの存在に気づけるかどうかは運任せになってしまい、それだけ戦果もあげにくくなる。
今回も、今日は智香子がいるからこうした実戦試験が行われている、という側面があった。
円盤を前に放つだけならば熟練も特に必要はなく、パーティから放たれた円盤はまっすぐに前にと飛んでいく。
たまに、見当違いの方向に進んで壁面なり天井なりに当たり、弾かれている円盤がないこともなかったが、そうした円盤は数えるほどであり、全体数から見れば問題はないといえる。
ほとんどの円盤はそのままずっとまっすぐに、遠くまで進み続け、そして、かなり遠方の、まだ点にしか見えないエネミー群へ突入する。
エネミーの側から見れば三十近い円盤がもろに突っ込んできたことになり、音もせずにこうした、予想外の襲撃を受けたエネミーたちは、逃げるそぶりも見せずにそのまま直撃を食らう。
血吹雪があがり、スイギュウ型エネミーの三分の一近くが一気に行動不能となった。
なんの傷を負っていないエネミーも、この突発的な異変をどう解釈するべきか戸惑っているようで、こちらに、パーティの方に向かってくることもなく、慌ただしく周囲を警戒している様子だ。
「直撃」
智香子は遠目に目視した状況をあえて口に出して報告した。
「かなりの被害が出ている模様。
エネミーたちは、まだこちらの攻撃だとは気づいていない様子です」
「上出来」
橋本先輩は、いう。
「かなりの打撃を与えた上、エネミーを動揺させた。
先制攻撃としては、十分に使えることが証明されたな。
各自、そのまま攻撃開始!」
それ以降は、ほとんど委員会パーティによる一方的な攻撃になった。
エネミーの側が戸惑い、動揺して散発的な反撃しかできず、そうした場合もその場で委員会の誰かが即座に対応して鎮圧をする。
結果をいえば、いつも、正面からエネミーと戦う時よりも、ずっと楽に全滅させることができた。
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