第207話 橋本先輩の解説
「予想していたことだけど」
橋本先輩は、例の円盤について、そう結論する。
「先制攻撃用の武器としては、十分に使えると思う。
ただ、委員会としてできるのは、推奨するところまでなんだけどね」
武器の選択や使用の仕方を含めて、その他のすべての細かい方法論については、探索部に所属する各員の選択に委ねている。
そもそも、委員会とはそうした方法を上から教えるような組織でもない。
今回の場合は、この円盤がかなり特殊な性質を持っていたせいで、実用的な扱い方を委員会から提示する必要があったわけだが、普通ならばこんな細かいことまで検証して周知するしなければならない義務も義理もないのだった。
「ただ、威力としてはご覧の通りだから、特に弓道部との兼部組がパーティ内にいないような時には、かなり使われるんじゃないかあ」
橋本先輩は、そうも続けた。
事前の準備が必要になるとはいえ、それ以外のデメリットがほとんど存在しない遠距離物理攻撃用の武器。
しかも、初心者から使用できて、威力もそれなりにあるとなっては、使用しない方がおかしい。
「その準備に時間がかかるから、エネミーと遭遇してから準備をはじめて、なんて悠長なことができないのが難点だけど」
即応性がない、というデメリットさえ理解していれば、それなりに使い勝手がいい武器ではあるのだ。
また、そのデメリットが存在するゆえに、この円盤をメインの武器にすることもできない。
実際的なことを考えれば、この円盤はあくまで、補助的な用途に留めるしかなかった。
「うちでもかなり使われると思うけど」
橋本先輩は、そう続けた。
「この円盤、しばらくすると学外の初心者に推奨されるようになるんじゃないかな」
エネミーと間近に接した時に、動きが止まる。
あるいは、とっさには動けない。
というのが、初心者にとっての難関になっている。
その点、この円盤は、遠く離れた場所から、エネミーを攻撃するという意識をさほど持たないまま使用でき、なおかつそこそこの威力を有していた。
初心者が迷宮とかエネミーに慣れるまでの間、最初に使う武器としてはかなり適しているともいえる。
またこの円盤についての情報も、ドロップしやすい〈武器庫〉の場所といっしょに公社経由で広報をされているので、探索者の間でも広く使われるようになるまで、それほど時間がかからないだろう。
というのが、橋本先輩の予想だった。
探索者というのは基本的に実際的な発想をする人種なので、より楽にエネミーを倒せる手段があれば、積極的にそれを活用する。
とのことだった。
確かにこの円盤の使用は、別に特別な技能を必要とするわけでもなく、それでいてそれなりの効果が望める。
その性質について十分に理解してさえいれば、それなりに使い勝手がいいのだった。
「ということで」
最後に、橋本先輩は、智香子にそういった。
「この円盤について、君たちで資料に資料にまとめておいて。
うちのサーバにあげて、探索部全員で情報を共有するから」
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