第177話 〈超重量の槌〉の使用法
まず智香子が〈ライトニング・ショット〉のスキルでこちらに突進してくるエネミーの勢いを減衰する。
佐治さんが〈盾術〉のスキルで、近くのエネミーを横転させたり体勢を崩したりする。
黎は、そうして隙が大きくなったエネミーに素早く致命傷を与えていく。
香椎さんは盾と剣とを巧妙に使い分け、自分の身を守りつつ着実にエネミーを攻撃して行く。
智香子を中心としてその前後を佐治さんと香椎さんが守り、黎が状況を見渡しつつ活発に移動しながら、遊撃に徹する。
智香子たち一年生組も、まがりなりにもこれまで半年以上、継続して迷宮に入る続けているわけで。
こうした連携も、この頃にはそれなりに巧妙になっていた。
シカ型がよく出るくらいの浅い階層は、智香子たちとっても慣れた場所であった。
そういう地の利も手伝って、智香子たち四人は着実に近寄ってきたエネミーを順番に倒していく。
いつもは先輩方が最前線を担当するので、一年生だけでこれだけ立て続けにエネミーを相手にする機会はあまりないのだが、それでもそうした慣れがあるために、智香子たちの間に動揺することはなかった。
智香子たちにしてみればこれまでと同じ手順を反復してているだけであり、それに、累積効果による身体能力の増加も、心理的な余裕に繋がっている。
端目には、次々とエネミーを倒して返り血を浴びた智香子たちの様子はかなり凄惨に見えたのだが、これもまた慣れのおかげで智香子たちは抵抗を感じていない。
自分たちの体が血で汚れ、周囲が血の匂いで充満していること。
これもまた、普通の学校内の生活と同じくらいには、智香子たちの日常を構成している。
そう。
これもまた、探索者としてエネミーを狩り続ける行為もまた、まぎれもなく智香子たちの日常、少なくともその一部なのである。
扶桑さんの会社の方々は、智香子たちよりははるかに手際がよかった。
おそろしくスピィーディかつ効率的に、移動をしながらシカ型を倒していく。
智香子たち四人は、慣れてきたとはいってもエネミーの方が近寄ってくるのを待ち構えてている方が確実なのだが、それなりの戦歴がある大人の人たちだと自在に動き回りながら、その移動の傍らにバッサバッサとエネミーを倒していく感じになる。
余裕というか、やり慣れているというか。
いや、根本的に、実力が雲泥の差なんだな。
と、智香子は、そんな風に思う。
累積効果があるか限り、迷宮の中で探索者は経験の差を覆すことはできない。
これまで、先輩方とのつき合いで、そうした認識が身に染みていたので、智香子としては特に悔しいとは思わなかった。
より長い時間を迷宮の中で過ごし、より多くのエネミーを手にかけた者が、それだけ強くなる。
探索者の世界では、その法則は物理法則並みに堅固な物であり、そこに劣等感などの感情を介入させる余地などない。
「はじめてにしては、うまくいったんじゃないかな?」
エネミーをすべて倒した後、羽鳥さんは智香子に向かってそういった。
「例のメイス」
「予想外にうまく行き過ぎた、というか」
智香子は、そういって頭を掻く。
「〈超重量の槌〉。
その名の通り、今のわたしでようやく手で持てる物、なんですけど」
持てはするが、持ったまま振り回したり、床に置いてあるのを持ち上げたりすることはできない。
名前の通り、そんな大質量の武器だった。
使用する場面を限定すれば、その質量をうまく利用することは、可能ではないのか。
智香子の予測は、今回の実験で裏付けられたことになる。
だけど。
と、智香子は思う。
これ、本当に、たまにしか使えないような。
というよりも、智香子がこの〈超重量の槌〉を本番で使う場合、智香子自身がかなり追い詰められた場合に限るのではないか。
実質、普段は〈フクロ〉の中に放り込んでおき、肝心の使用時だけその中から出す形でしか、使えない感じだった。
威力こそ大きいが、使える場面が限定されていて、さらにいえば、上から真下に振り下ろす形でしか使用できないので、エネミーがこちらのことを警戒している場面でも使えない。
これを使う以外にエネミーへの対処する方法がない場合にのみ、使うような。
そんな、最後の切り札的な使い道しか、智香子は想像ができなかった。
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