第143話 一年生たちの方法
というわけで、智香子たち一年生四人も慌てて千景先輩の後に続く。
槍を振り回している千景先輩はずんずん、無造作に〈バッタの間〉の奥へと進んでいくので、安全な距離を取ること自体はあまり問題にならない。
なにしろ〈バッタの間〉はかなり広かった。
それよりも気になるのは。
「先輩、凄いな」
佐治さんが、感心したような口調で呟いた。
「あの人、全然体で受けていない」
エネミーを、という主語が省略されていたが、智香子たち他の三人にはすぐに意味が伝わる。
千景先輩はすぐ目の前で、振り回した槍だけでほぼ全周に密集していたエネミーを叩き落とし続けていた。
槍を高速で動かしているのはもちろんだが、それ以上に視界が広く、いいやそれだけでは間に合わず、〈察知〉系のスキルまで駆使して視界外のエネミーを捕らえ、確実に叩き落としている。
そういうことになる。
智香子はもちろん、他の一年生たちにもできない芸当といえた。
運動能力もさることながら、あれだけ多数の標的を漏らさず、的確に叩き落としている処理能力は、どうあがいても智香子たち一年生には真似できない。
「それよりも、今は目の前のエネミー!」
香椎さんはそういって、愛用の長剣を振り回している。
香椎さんは一時期、智香子のように棒を使っていたこともあったのだが、現在は長剣使いに落ち着いていた。
普段は片手に長剣、もう片方の手に盾を持つことが多いのだが、ここのエネミーであるバッタ方はわざわざ盾で防ぐような必要もない、小型のエネミーである。
千景先輩のように完全に防ぐことは不可能だったが、仮に体に衝突をして来ても、実際にはたいしたダメージにはならなかった。
防御のことを考えず、エネミーを攻撃することに注意力を全振りする。
それが、ここ〈バッタの間〉で正当とされる方法論になる。
香椎さんはその長剣を全力で振り回していた。
特に当てようと思わなくても、振り回してさえいればエネミーの方が勝手に当たって落ちてくれる。
そんな密度である。
「おりゃあ!」
佐治さんも、気合いを入れながら両手に盾を振り回していた。
普段は片手にメイスを装備することが多い佐治さんだったが、香椎さんとは逆に、両手に盾をひとつずつ持って対処している。
重たく取り回しに体力を使うメイスよりは、この場ではより手軽に扱える盾を両手に持った方が効率がいいと、そう判断したのだろう。
あと、佐治さんは〈盾術〉スキルの練度をあげたがっていたので、それも関係しているのかも知れない。
この〈バッタの間〉のような環境では、今佐治さんがやっているよに、両手に盾を持って振り回すのは方がそれなりに効率的ではよな、と、智香子も思った。
黎は、いつものように両手に短剣を持って休むことなく振り回していた。
千景先輩ほどではないものの、素の動きは素早く、今の智香子の目では追いきれない。
もともと黎は、一撃のダメージ量よりも手数で勝負するタイプの探索者だった。
フットワークが軽く、絶えず移動している。
今回はどうやら千景先輩に対抗意識を持ったらしく、普段よりも張り切って素早く移動し、動き回っていた。
「みんな頑張っているな」
他の三人の様子をさりげなく観察した後、智香子も自分なりの方法でこの〈バッタの間〉に対処をしはじめている。
なにしろここは前周囲にまんべんなくエネミーがいるので、他の三人ほど体を動かすことに自信がない智香子としては、できるだけ〈スキル〉によって対処したいところだった。
あれを試してみるかな、と、〈雷撃の杖〉を手にした智香子は思う。
以前、〈白銀台迷宮〉でふかけんの人たちに同行した時に思いつき、機会があれば試してみようと思っていた方法があるのだ。
「ええっと」
智香子が手にしていた〈杖〉から盛大に放電が起こり、それに巻き込まれたバッタ型が何体か地面に落ちていく。
これだけでは、駄目。
威力が及ぶ範囲が、限定されている。
かといってショット系など、攻撃を発射するタイプのスキルは、ここでは仲間に当たる危険性があった。
だから。
智香子は、〈杖〉の雷撃を意識して制御しようと試みる。
〈白銀台迷宮〉で、智香子はショット系のスキルを同時多発することも可能であると知った。
だとすれば、これもできるはず。
智香子の体の周囲に、ひとつ、ふたつ……と放電が浮かび、バチバチと音を立てて弾けた。
これを維持したまま、もっと増やして。
放電の火花はさらに増えていき、ときおり消える物もあるのだが、すぐに復活する。
だんだんと増えていった火花は、最終的には膨大な数になり、智香子の体全体を覆いはじめた。
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