第2話 バッタの間

 新入生たちは皆、迷宮に入るにしては軽装だった。

「どうせまだ、低層にしか行かないし」

 そこまで大げさな装備は必要ないと先輩方にいわれ、保護服とは名ばかりの初心者用、普通の作業着とかわらない服や、それに中には学校指定のジャージを身につけただけの子さえいる。

 流石にみんな、ヘルメットだけはしっかり着けていたが、それでも全体的に見て防御面で不安があることには変わりない。


「はい。

 トロトロしていないで、行く」

 引率役の先輩が、新入生たちを促す。

「怪我、しませんか?」

「多少はするだろうが、〈ヒール〉ですぐに治る。

 その前に、全部こいつらを倒しきってみろ」

「全部、って」

 新入生たちは口々にそういって、絶句する。

 迷宮第七階層の、通称バッタの間。

 その区画には、何千何万という単位の巨大な、全長三十センチ以上はあるバッタがひしめいている。

 虫が苦手な人が見たら、それだけ卒倒しそうな光景だった。

 いや、それ以上に、迷宮未経験者二十余名ばかりだけで、手に負える数ではないように思える。

「大丈夫。

 案外、やってみればできるもんだって」

 引率役の先輩は投げやりな口調でいった。

「初心者はそれこそ、一匹倒すごとに力が強くなるのを実感できるから。

 それに、運がよければ初日にスキルを生やすことだって、ないわけじゃあない。

 第一、わたしらだってわたしらの先輩方だって、毎年毎年同じことをずっと繰り返しているんだ。

 今年の子だけできないってことはない」


 続けて引率役の先輩は、

「ここにいるバッタなんて、脆いから攻撃があたりさえすれば簡単に倒せるよ」

 と、そう保証してくれた。

「それに、やつらの攻撃が当たったところで、たいしたダメージがあるわけでもない。

 立て続けに何十回も当ったりしなければ、特に問題にはならないから」

 つまりは、このバッタの間とは、初心者の探索者にとって、エネミーを一方的に倒し放題にできる、おいしい場所なのだという。



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