第263話 三分間弱
ちらりと周囲の新人さんたちの様子を確認してみると、ほぼ全員が目を丸くして驚いている様子だった。
ある程度キャリアがある探索者が、本気で動き回っている様子をはじめて目の当たりにすれば、こうなるよな。
などと智香子は思う。
この〈スローター〉氏の場合、他の探索者とは違ってソロで活動することを前提に動いているから、なおさら非現実的な動きになる。
一瞬も立ち止まることなく、それどころか時には壁や天井を蹴り、そこで反射しているような非人間的な動きを見せていた。
速度も、だが、常に方向を変えて行き先が予想できない。
武器、例の〈九尾の鞭〉とかいうアイテムも休むことなく振り回しているので、青白い光でできた半円状の弧をいくつも体の周囲にくっつけながら高速で動き続けている形になる。
そうした光や〈スローター〉氏の体に触れたエネミーは例外なく焼け焦げた状態で落ちていた。
そのため、あれほど〈バッタの間〉に存在していたエネミーの密度は急速にまばらになっていく。
はやっ。
と、智香子は感心した。
智香子はこれまで何度か先輩方が単身でこの〈バッタの間〉に挑戦する様子をこの目で見ていたが、そのどの時よりもこの〈スローター〉氏のやり方は効率的だった。
〈スローター〉氏が〈バッタの間〉を全滅させるまで、五分もかからなかった。
正確に時間を計っていた人が新人さんの中にいて、後でその人に聞いたところによると、三分を切っていたという。
いずれにせよ、これほど広い〈バッタの間〉にひしめいたいたエネミーを全滅させた時間としては、かなり短い。
〈スローター〉氏自体の動きが速く、その動きを目で追うのが精一杯だったため、体感ではもう少し長く感じたのだが、実際にはあっという間だったといえる。
名が通った探索者って、こんな感じなのか。
智香子は、そんなことも思う。
スキル構成などにより、具体的な手法自体には個人差があるのだろうが、これが専業探索者の実力、なんだろうな。
学校生活の片手間に、部活として迷宮に入っている自分たちのようには、緩くはないんだな。
などと、当然のことも考えた。
〈バッタの間〉のエネミーを全滅させた後、〈スローター〉氏はその区画の外にいた智香子ら聴衆の前で唐突に立ち止まり、そこで深々と一礼をしてからその場にしゃがみ込んで、ドロップしたアイテムを拾いはじめた。
智香子たちや新人さんたちも、慌てて〈バッタの間〉に入って〈スローター〉氏のように屈み込んでエネミーの死体をかき分け、ドロップしていたアイテムを拾いだす。
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