第83話 兼部組

 夏休みに入ったばかりのこの段階では一年生たちは固定的なパーティを組むということがなく、ランダムに振り分けられている。

 この時期はまだスキル構成的に見ても各人の特徴というものがあまり強く出ておらず、つまり大同小異でパーティ内での役割分担などがほとんどできないから、という側面もあるだろうなと、智香子などは思う。

 サポート系のスキルばかりが充実している智香子はそんな一年生の中でも個性的な部類に入り、いやそのことについては智香子本人にとっては嬉しくともなんともないのだが、他の一年生がエネミーを見ると雄叫び上げて躍りかかり、「うりゃあ!」とか「どりゃあ!」見たいな気合いとともに武器を振り回している様子を見るにつけ、「もっと女子中学生らしい夏休みの過ごし方はあるのではないか?」という疑問を持ってしまうのであった。

 一年生のみに限らず、探索部に参加している生徒たちのほとんどが他の部活との兼部組だった。

 これは、「探索部の活動によって得た資金をそのまま部費として使える」という松濤女子独自の取り決めによるところが多い。

 弓道部、剣道部などの武道系、陸上部、水泳部などのスポーツ系、変わったところでは吹奏楽部や演劇部などの文化系のクラブなども体力作りの一貫として探索部との兼部活動を推奨している。

 そのおかげで、かどうかはわからないが、松濤女子では多様なクラブ活動が活発な学校として知られていた。

 特に吹奏楽部や演劇部などはそれぞれ毎年全国大会で上位の成績を取る常連校だそうで、たいして武道やスポーツ系のクラブが全国レベルで優秀な成績を収めたという話はなかなか聞こえて来ない。

 それはともかく、この各クラブの探索部との兼部は、部費目当てもあってなかなか活発だった。

 特に人数の多い吹奏楽部などは吹奏楽部との兼部組だけでパーティを組み、一年生の育成もしている。

 吹奏楽部はOGの人数も多く、下手な運動部よりも体育会系ノリというか上下の力関係差が強いそうだが、ともかく智香子たち部外の一年生がそうした吹奏楽部との兼部組といっしょに迷宮に入る機会はこれまでになかった。

 ただ、先輩たちか聞こえてくる風評では、

「やつらは、強い」

 ということで意見が一致している。

 なんでも、個々人のレベルが高いだけではなく、連携に乱れがない、そうだ。

 その逆によく同じパーティになるのが弓道部や陸上部などの武道系、スポーツ系クラブの兼部組で、特に弓道部との兼部組はほぼ全員が比較的強力な遠距離スキル〈梓弓〉を使えるため、どのパーティにも数名ずつ配置されることが多かった。

 短期決戦でエネミーを倒すことしか考えていないほとんどの探索部員の中にあって、貴重な後衛要員だったからである。



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