第96話 特殊階層
他にも大勢、〈特殊階層〉攻略に参加する探索者は多かったので、松濤女子組も百名以下のグル-プに別れて迷宮に入ることになった。
列を作って順番にゲートをくぐり、その先にある迷宮に入ったところで公社の係員が〈フラグ〉のスキルを使う。
すると次の瞬間に、視界が一気に開けた。
「わあ」
思わず、智香子は小さく歓声をあげてしまう。
「本当に、ビーチだ」
「水着を買って、正解だったな」
佐治さんも、そういう。
実際には白い砂浜や打ち寄せてくる波など、お馴染みの光景の中には大勢の探索者たちが存在しているのだが。
「三十分ほどエネミーの処理に参加したら、必ず場所を他の人に空けて休憩をしてください!」
公社の腕章を腕につけ、拡張器を持った人がそんなアナウンスを流している。
「この階層には、エネミーが大量に発生しています!
一人ですべてを狩ろうとはせず、順番に討伐をしてください!
疲労による事故の防止にご協力をお願いします!」
公社職員がいっている通り、海岸線に沿って並んだ大勢の探索者たちがめいめい、攻撃用のスキルをつるべ打ちにしていた。
遠距離から中距離、それに近距離まで。
種類も射程距離も異なるスキルがこれでもかと連発されている光景は、壮観ではある。
「おお」
と、智香子も歓声をあげていた。
これだけ大勢の探索者が一度にスキルを使用している光景を見るのは、智香子にとってもはじめての経験である。
それだけ大人数の探索者が動員されて、さてどんなエネミーを相手にしているのかと、智香子は沖の方に目を凝らす。
「……イタチ?」
細長い胴体をした哺乳類、ということまではわかったが、動物に詳しいわけでもない智香子はその種類までは特定できなかった。
「ラッコ型、だそうだよ」
すぐそばにいた黎が説明をしてくれる。
「海にイタチはいないでしょ」
「ラッコ?」
智香子は首を捻った。
「ラッコ相手に、これだけの人数を集めたの?」
「小さいし強くないけど、とにかく数が多いんだって」
黎が答える。
「こっちも人数を揃えて対抗しないと、すぐに飲み込まれる。
特殊階層ってのはここに限らず、特殊な方法でしか攻略できないところが多いんだ」
そこまでのものなのか。
智香子は感心をする。
そんなとてつもない階層が出現する迷宮と、そうした特殊な条件にもめげずにどうにかして攻略を試みる人間のしぶとさ、その両方に感心をしていたように思う。
大勢の探索者たち惜しげもなく連発しているスキルは、特に射程が長いスキルは見た目にも派手で、擬音でいうのなら「ドカン! ズシン! バリバリ!」といった感じだ。
すべて、かなり遠い沖の方で炸裂をしているわけだが、ここまでその音が響いてくる。
ほー。
と、これにも、智香子は感心をした。
智香子はこれまで、ここまで遠い距離に届くスキルというものを見たことがない。
〈ライトニング・バレット〉や〈梓弓〉も一応は遠距離用スキルに分類されているのだが、それでも有効な射程距離はせいぜい百メートル以内だ。
しかし、今、沖合の方を攻撃しているスキルは水平線近く、目測で一キロ以上はありそうな遠くにまで届いている。
スキルとは、うまく鍛えればここまで射程が伸びるものなのか。
智香子はそのことに驚き、同時に感心もしている。
なんでもありなんだんあ、スキルって。
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