第101話 探索者いろいろ

 なにはともあれバーベキューである。

 こんがりと炭火で焼いたお肉と野菜。

 これらは智香子たち一年生の注意を奪うのに十分な魅力を持っていた。

 スイギュウ型の肉は、確かに匂いが強いようには感じた。

 だが、「癖がある」というほどの臭みは感じず、ちょっと風味が違う牛肉、としか、智香子には感じられない。

 ごく普通の牛肉であるといわれて出されたとしても、特に違和感はおぼえなかっただろう。

 現在食卓に並んでいる食肉が長い時間をかけて品種改良をされ、飼料なども研究された結果完成した物であることを考えると、エネミーの肉を普通に感じるということは、かなり驚異的な事実だった。

「なんでエネミーのお肉って、普通に食べていないんだろう?」

 智香子はそんな疑問を口に出す。

「大昔は結構食べていたそうだけどね」

 例によって事情通の黎が、教えてくれる。

「それこそ、見境なしに。

 あんまり片っ端から、それこそ食用にならないような不味い肉も狩って食べていたから、エネミーはすべて不味いってイメージができあがっちゃって。

 それで、食べ物に困らないようになってからは、わざわざエネミーを食べようとする人はいなくなったんだって。

 つまり、ほとんどは、ってことだけど」

 大昔。

 ってことは、文脈からしてそれこそ、戦後の食糧難の頃とかかなあ、と、智香子は想像をする。

 智香子はその時代のことは映画やドラマでしか知らなかったが、そのイメージからすると確かにエネミーだろうが見境なく食べようとするかも知れない。

 そして、この国全体が豊かになるにつれ、食肉としてのエネミーが次第に顧みられることなくなっていくことにも、特に違和感を感じなかった。

 その当時を生きていた人にしてみれば、エネミーを食べるという行為はその時代の貧しさ、余裕のなさを突きつけられるようなものなのだろう。

 もっとも今では、その当時を記憶している人というのは相当の高齢であり、それこそ智香子たちの世代から見れば曾祖父とか曾祖母くらいであってもおかしくはない世代になるわけだが。

「それに、今食べているこれは普通においしいけど、エネミーのすべてがおいしいわけではないと思うんだよね」

 黎は、そう続ける。

「エネミーの相手をする探索者にしてみれば、わざわざ迷宮に入るからには、進んで割の合わない仕事をしたくはないって人のが多いだろうし」

 迷宮に入るからには、食肉を卸すよりはずっと効率のよい稼ぎ方をする方がいい。

 そう考える探索者の方が、ずっと多いだろう。

 黎がいいたいのは、つまりはそういうことだった。

「スイギュウ型って、比較的浅い階層で出るんだっけ?」

 智香子は小さく呟いた。

「ついでにいうと、出るときはたいてい数十頭とかいう単位の群れで出てくる」

 黎は淡々とした口調で続けた。

「そういうエネミーを定期的に相手にするってことは、おそらくは第一線の人というよりは、比較的低リスクでそこそこの収入を得られればいいって、そう考えている人だと思う」

 むむ。

 と、智香子は感心をする。

 探索者といえば一攫千金を狙う山師的なイメージが強いのだが、そういう、「低リスク低リターンで満足する探索者」も存在するわけか。

 いや、当然、いるのだろうな。

 なんといっても、安全と命は大事だし。

「探索者もいろいろだねえ」

 そんなことを思いながら、智香子はそう呟いた。

「探索者一人一人が、独自の方法論を持っているっていうしね」

 黎はそう続ける。

「エネミーとの戦い方しかり、換金方法しかり。

 自分だけのおいしい猟場を隠し持っている探索者も少なくないっていわれているし。

 それに、それくらいでないとそもそも職業として定着するところまではいかないと思う」

 探索者としてやっていける人は、迷宮から安定して収益をあげることができる、自分なりやり方を見つけることができた人でもある。

 どうやら黎は、そういいたいようだった。

 迷宮にお肉を求めるのも探索者。

 一攫千金を狙うのも探索者。

 いずれにせよ。

 と、智香子は思う。

 部活で迷宮に入っている自分には、あまり関係のない内容ではあった。


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