第327話 「大人の、専業探索者」
ただ、そうした世良月の背景にある事情については、智香子としては積極的に踏み込むつもりはなかった。
世良月本人が自発的に語るならばともかく、智香子たちが興味本位にほじくり返すような話題には思えなかったからだ。
案外、当事者である世良月本人はあまり重く受け止めていないのかも知れないが。
それでも、その当人からして「事情は複雑」とか「簡単に説明することは難しい」と明言している以上、実際に当人も容易に語りがたい要素がなにがしか、あるはずだったし。
「親の探索者仲間、かあ」
智香子がそんなことを考えている間に、香椎さんがそんなことをいう。
「大人の、それも専業の探索者って、本当ろくなのがいないからね。
あんまりあてにしたくないの、よくわかるわ」
香椎さんは香椎さんで、世良月の発言の中にあった別の要素に引っかかりを感じたようだ。
そういえば、香椎さんの父親もロストした探索者だった。
「大人の、専業の探索者」
の生態について、香椎さんが詳しくてもおかしくはない。
「ですよね!」
なぜか、世良月が大きな声を出して身を乗り出した。
「大人の探索者って、変なやつらばかりですよね!」
「あー」
佐治さんが、そんな指摘をする。
「あの〈スローター〉氏も、大人で専業の探索者になると思うんだけど」
「師匠の場合、まだ探索者になってから日が浅いですから」
世良月は、なぜかそう力説する。
「それに、厳密にいえばまだ成人前、大人でもありませんから!」
「確かにあの人は、まだ擦れていない印象があるかな」
香椎さんまでもが、そんなことをいいはじめる。
「妙に素直なところがある、っていうか」
「専業の探索者って、その、そんなに妙な人たちばかりなの?」
智香子が、そんな二人に訊ねてみる。
「そりゃもう!」
「変人ばかりですよ!」
香椎さんと世良月とが、ほぼ同時にそんなことをいった。
「他の場所で受け入れられない人ばかりが集まるんだから!」
「社会不適合者の集まりです!」
どうやら二人とも、大人の専業探索者について、あまりいい印象を持っていないようだ。
そうした二人の見解が、たんなる偏見に基づくものなのか、それともいくばかの事実を含んでいるのもなのかどうか、専業の探索者と面識がほとんどない智香子にはなんとも判断ができなかった。
ただ、この二人が見知っている大人の専業探索者の人たちが、ある種の変人ばかりであることは、確かなようだったが。
なんか、そっちの話題にも触れない方がいいかな。
などと、智香子は思う。
このまま探索者としての活動を続けていけば、智香子自身もそうした「大人の、専業探索者」と接触する機会もそれなに増えていくはずで。
智香子自身がそうした人たちをどう思い、評価するかは、その時にまで保留をしておく方が公正な態度に思えた。
取得アイテムの選定に話題を戻すと、メインの武器がすでに固定している黎は、ステータス補正効果のあるアクセサリーをいくつか選んだだけだった。
「使い慣れている武器を今さら替える理由も別にないしね」
黎は、そう説明する。
「それに、あんまりゴテゴテとアイテムばかり身につけても、動きが鈍るだけだし」
結果、あまり邪魔にならない装身具をいくつか、という選択に落ち着いたらしい。
世良月も、同じくステータス補正効果のあるアクセサリーをいくつかと、それに、〈杖〉系のアイテムも慎重に選んでいた。
「〈投擲〉は、攻撃を開始するまで、どうしても時間がかかりますから」
世良月は、そう説明する。
「遠距離からの支援に特化するのはいいにしても、〈投擲〉以外にも連射が効く攻撃方法を持っていた方がいいかと思いまして」
実際、〈ショット〉とか〈バレット〉系のスキルを習得することは、そんなに難しくはない。
そうすることにより、遠距離支援の方法に幅ができるのならば、それはそれで歓迎するべきことだといえた。
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