第328話  〈透徹者の眼力〉

「ええと、これ?

 本当にこれ着けるの?」

 智香子はあるアイテムを手にして、左右を見回す。

「なんだかわたしの分だけいつも、コスプレじみたアイテムばかり回ってくるような気がするんだけど!」

「いや、今回なんか、わたしもモロ、コスプレっぽいアイテム貰っているし」

 黎が、すかさず指摘をする。

「尻尾だよ、尻尾。

 あれがコスプレじゃなけりゃなんだよ!

 っていうことでさ」

 黎のいうアイテムは、具体的には〈まだらの鈎尻尾〉という。

 ベルトにつけるタイプのアイテムで、効果は幸運と敏捷性のプラス補正。

 ちなみにこれを身につけると、装備者の機嫌などを反映してぴょこぴょこ勝手に動く、という効果もある。

 ただ、後者の効果については、意味があるのかどうかは不明だった。

「〈まだらの鈎尻尾〉は、まだいいよ!

 可愛いじゃん!」

 智香子はそう主張した。

「これはなに?

 モロに怪しい、女王様風の仮面は!」

「でもそれ、チカちゃんのスキル構成を一番活かせるアイテムでしょ」

 香椎さんは、冷静にそう指摘をする。

「ルックスがSMチックになるっていうのは否定できないけど、この場合、見た目よりも効果を重視するべきだと思うけど」

「このマスク、実際に使うとなるとフェイスファードの上から貼り付ける形になるのかあ?」

 佐治さんは、呑気な口調で疑問を口にした。

「顔に直接貼ることもできるし、フェイスガードの上に貼ることもできるみたい」

 智香子が、〈鑑定〉スキルで読み取った情報を披露する。

「貼る、っていうか、自分の目のあるあたりにつけると、勝手に固定されるとか。

 どういう原理でかはわからないけど」

「この中ではチカ先輩が、情報収集に特化したスキル構成になるわけだから」

 柳瀬さんは、そう指摘をする。

「その長所を伸ばすアイテムは、積極的に取っていくべきでしょう」

 智香子のいう女王様風の仮面は、目の周囲だけを覆うような真っ赤なマスクで、正式な名称は〈透徹者の眼力〉という。

 いかめしい名称の割には、外観がいかにもいかがわしかった。

 智香子は現在、ウサギ耳風のアイテムを装備した上で魔法少女風のカラフルな〈杖〉も振り回している。

 この上、この女王様風のマスクまで顔につけたら、コスプレを通り越してアホな仮装にしか見えない。

「みんな、他人事だと思って!」

 智香子は抵抗した。

「いや、実際他人事だし」

 佐治さんは、あっさりとそういい切る。

「でも重要なのは、見た目よりも効果でしょ?

 このマスク、かなりの優れもんだと思うけどなあ」

「うう」

 そう断言をされると、智香子も言葉に詰まるのだった。


 アイテム、〈透徹者の眼力〉。

 その効果は、かなり特殊で限定的だった。

 なにしろ、〈鑑定〉スキルを持っていないと、意味がないのだ。

〈透徹者の眼力〉を装備した状態の〈鑑定〉スキル所有者は、〈鑑定〉スキルが届く範囲が二倍以上に広がり、さらには常時発動状態となる。

 これは、〈察知〉スキルその他の、特殊な感覚を使用者に与えるスキルと〈鑑定〉スキルとの同時使用が可能になる、ということを意味した。

〈察知〉スキルは便利だが、エネミー側が〈隠密〉スキルなど、特殊なスキルを所持していた場合には、その存在を感知することができないことがある。

 例のロスト時も、智香子はその性質に悩まされ、頻繁に〈察知〉と〈鑑定〉スキルを切り替えながら索敵をしていた。

 こうした作業は、実際にやるとなると地味に神経を削られる。

〈察知〉にせよ〈鑑定〉にせよ、智香子たち普通の人間が感知できない情報を無理に感知できる状態にするスキルなわけで、普通にその手のスキルを使用するだけでも頭が痛くなることがある。

 たぶん。

 と、智香子は推測する。

 そういうスキルを使う時は、脳の、普段はあまり使わないような機能を無理に使っているんだろうな。

 人間の情報処理系に、大きな負荷をかけるスキルなのではないか。

 と、智香子は、そう思っていた。

〈透徹者の眼力〉装備した時、所有者はいわば三重の感覚を同時に味わう形になる。

 普段、語感で感知できる世界と、〈察知〉で感知できる世界、それに、〈鑑定〉によって読み取れる情報系。

 この三重の感覚を同時に感知し、その上、おそらくは使用者の負荷を軽減する効果がある。

 限定的な効果でありながら、この〈透徹者の眼力〉は、地味に凄い。

 それだけは、確かなのだった。

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